海外医療通信 2020年8月号 : 東京医科大学病院 渡航者医療センター・海外感染症流行情報
海外医療通信 2020年8月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター
・海外感染症流行情報 2020年8月
(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況
新型コロナウイルスの累積感染者数は8月下旬までに約2300万人、死亡者数は約81万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2020-8-24)。1か月前に比べて累積感染者数は約700万人増えていますが、新規発生数は横ばい傾向です(WHO Corona virus disease 2020-8-17)。地域別ではアメリカ大陸での発生が多く、とくに南米での感染者数が増加しています。米国やブラジルでは毎日4万人前後の感染者が発生していますが、先月よりも少なくなってきました。アジアではインドやフィリピンでの感染者数が多く、とくにインドでは日に6万人を越えることもあります。西ヨーロッパでは流行の再燃がみられており、スペインやフランスなどで増加傾向にあります。アフリカでは南アフリカで感染者数が多くみられましたが、最近は減少しています。
日本政府は、感染状況が落ち着いている国との間で、ビジネス渡航の再開を図っています。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/cp/page22_003380.html
この事業は出国前に自国で新型コロナウイルスのPCR検査を受け、陰性証明書を持参した者を渡航させる方法です。ベトナム、タイとの間では交渉が成立しており、東アジアや東南アジア諸国との外交交渉を進めています
(2)南半球:季節性インフルエンザの流行は未発生
南半球は6月頃から冬季に入り、毎年、季節性インフルエンザの流行がみられます。しかし、今年はオーストラリア、ニュージーランド、南米、アフリカ南部のいずれの地域でも、インフルエンザの流行がまだ発生していません(WHO influenza 2020-8-17)。この理由として、南半球では新型コロナが流行しているため、ウイルス同士の干渉現象がおきているという説や、新型コロナの予防対策がインフルエンザの予防に役立っているという説が考えられています。今後、北半球でも、冬になった時にインフルエンザの流行が抑えられるかどうかは不明です。
(3)アジア:東南アジアでのデング熱流行
シンガポールでは今年のデング熱患者数が2万人を越えており、例年にない大きな流行となっています(WHO西太平洋 2020-8-13)。一方、それ以外の東南アジアの国々では患者数が例年よりも少ない状況です。マレーシアでは6万人、フィリピンでは5万人、ベトナムやタイでは4万人の患者が報告されています。
(4)アジア:ミャンマーでジフテリア患者が増加
ミャンマー東部のシャン州で7月末からジフテリア患者が多発しています。患者数は36人にのぼり、うち5人が死亡しました(Outbreak News Today 2020-8-14)。ジフテリア菌は患者の飛沫などから感染し、主に呼吸器系の症状をおこします。予防にはワクチン接種が最も有効で、破傷風と百日咳との三種混合ワクチンを接種します。
(5)アフリカ:コンゴのエボラ熱流行
コンゴ民主共和国北西部の赤道州で6月からエボラ熱の流行が発生しています。8月中旬までに州都Mbandakaなどで患者数は100人以上にのぼり、うち43人が死亡しました(WHO アフリカ2020-8-21)。最近1か月で患者数は2倍近くに増えています。
(6)南米:デング熱の流行が拡大
南米でデング熱の流行が拡大しています。パラグアイでは今年の患者数が22万人を越え、統計をとるようになってから最も多い数になりました(Outbreak News Today 2020-8-14)。ペルーでも患者数は3万人近くで、これは昨年の3倍以上の数です(Outbreak News Today 2020-8-12)。南米では新型コロナの流行により、蚊を減らす対策が停滞していることがデング熱流行の原因と考えられています。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2020年7月6日~2020年8月9日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。新型コロナウイルス流行にともなう渡航制限および入国制限により、この期間中の輸入感染の事例は大幅に減少しています。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2020.html
(1)経口感染症:輸入例としてはアメーバ赤痢が4例のみでした。
(2)昆虫が媒介する感染症:マラリアが2例(ナイジェリア、カメルーンで感染)でした。デング熱はこの期間に報告されませんでした。
(3)新型コロナウイルス感染症:この期間に93例の輸入例が報告されており、前月(70例)に比べて増加しました。感染国はフィリピンが40例、米国が12例と多くなっています。
(4)その他:麻疹、風疹の輸入症例はこの期間に報告されませんでした。
登山者・高山病外来の状況
渡航者医療センターでは2010年の開設当初から,登山者・高山病外来を設けています。当センターは,日本登山医学会と海外登山専門の主要旅行会社6社から成る「登山者検診ネットワーク」の登録施設で,標高3,800m以上で宿泊する高所登山・高所旅行者対象に検診を行い,高所環境で悪化しうる疾患の有無や耐性を精査しています。同ネットワークの他,個人渡航者,産業医を通した海外高所就業予定の受診者がいます。2019年の受診者は延べ125人。平均年齢は52.5歳で、60歳以上が47人を占めました。受診目的は海外登山が64人と最多で,次いで海外天文台事業が46人,海外鉱山事業が7人でした。渡航地域は南米が67人、アジアが32人でした。
海外の高所へ渡航する日本人は増えており、標高2500ⅿ以上の高所滞在は高山病の危険と隣合わせです。特に,持病をもつ中高年は危険が増すため,十分な精査と渡航可否を含めた専門的助言が必要と考えます。(医師 栗田直)
・渡航者医療センターからのお知らせ
(1) オンラインによるワクチン相談の開始
渡航者医療センターではオンラインによるワクチン相談サービスを開始しました(有料)。オンライン診療で、渡航地域に応じたワクチン接種プランの提示や、留学に必要な書類の作成アドバイスを行います。詳細は下記をご覧ください。
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200729_2.html
(2) ビジネス渡航にともなう新型コロナウイルスPCR検査
渡航者医療センターではビジネス渡航にともなう新型コロナウイルスのPCR検査と診断書の発行を行なっています。詳細は下記をご覧ください。