海外医療通信 2023年3月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター      

海外感染症流行情報 2023年3月 

                              

(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況

23年3月は新型コロナウイルスの新規感染者数および死亡者数が世界的に減少しています(WHO Corona virus disease 23-3-22)。ただし、東欧、中東、インドなどで感染者数がやや増加傾向にあります。ウイルスの種類はオミクロン株の組換え型(XBB、XBB1.5など)が世界的に拡大しており、米国ではXBB1.5が9割を(米国CDC 23-3-25)、ヨーロッパでは3割以上を占めています(ヨーロッパCDC 23-3-24)。日本でも新規感染者数は減少しており、ウイルスの種類としてはBQ.1の検出が多くなっています(厚労省アドバイザリーボード会議 23-3-24)。

(2)全世界:インフルエンザの流行状況

北半球でのインフルエンザ流行は3月になり全体的に収束しつつあります(WHO 23-3-20)。北米では感染者数が流行レベル以下になりましたが、ヨーロッパでは流行レベル以上の国がまだ多く、最近ではB型が増えています。東アジアでは中国でA(H1N1)型が増加しており、東南アジアではマレーシアでB型、シンガポールやタイでA(H3N2)型が増加傾向にあります。

(3)アジア:カンボジアと中国で鳥インフルエンザの患者発生

カンボジア南部で、2月末に鳥インフルエンザA(H5N1)型の患者が2人(親子)発生し、子ども1人が死亡しました(WHO 23-2-26)。カンボジアでは2014年以来のH5N1型の患者発生になります。中国の江蘇省でも、1月末に53歳女性がH5N1型を発症しています(Pro MED 23-3-3)。現在、世界的にH5N1型の流行がトリの間で拡大しており、ヒトの感染についても十分な監視が必要です。

(4)アジア:インドネシアでポリオ患者が発生

インドネシアのジャワ島西部で、ワクチン由来株のポリオ患者が1人発生しました(Global Polio Eradication Initiative 23-3-20)。インドネシアでは22年にスマトラ島のアチェで、同じワクチン由来株のポリオ患者が確認されていますが、ジャワ島では初めての発生です。インドネシアに長期滞在する際にはポリオワクチンの追加接種を推奨します。

(5)ヨーロッパ:ボツリヌス菌毒素による肥満治療と副反応

ヨーロッパでボツリヌス菌毒素による肥満症治療後に、この毒素による神経症状を起こした患者が、2月下旬〜3月上旬にかけて71人発生しました(WHO 23-3-24)。患者はトルコ(53人)とドイツ(16人)で多く、トルコの2か所のクリニックで、この毒素による肥満症治療を受けたことが原因でした。ボツリヌス菌毒素は様々な医療行為に用いられていますが、適切に使用されないと神経系の障害を起こします。今回のケースも麻痺などの症状をおこしており、5人がICUで治療を受けました。

(6)アフリカ:赤道ギニアとタンザニアでマールブルグ熱発生

前号でも報告したように、アフリカ中部の赤道ギニアで、今年2月初旬からマールブルグ熱の患者が発生しており、患者数(疑いを含む)は3月中旬までに29人となり、27人が死亡しました(WHO 23-3-22)。当初の患者発生は北東部に限局していましたが、3月になり国内の広い範囲に拡大している模様です。アフリカ東部のタンザニアでも、3月から北西部のカゲラ州でマールブルグ熱の患者が発生しています(WHO Africa 23-3-21)。3月中旬までに患者数は8人で5人が死亡しました。マールブルグ熱は致死率の大変高いウイルス性出血熱で、赤道ギニア、タンザニアともに今回が初めての流行です。

(7)中南米:蚊媒介感染症の患者が増加

中南米で蚊が媒介するデング熱、チクングニア熱の患者数が近年、増加しています(WHO 23-3-23)。デング熱は22年にブラジルなどで280万人の患者が発生しており、21年の2倍以上の数になっています。チクングニア熱の患者は23年が3月初旬までに11万人で、22年同期の4倍に増加しました。とくにパラグアイでの患者発生が多くなっています。こうした蚊媒介感染症の増加は、新型コロナ対策で保健担当者が多忙になり、蚊の駆除が十分に行われていなかったことが一因と考えられています。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2023年2月6日〜23年3月5日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査 2023年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫事例 新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況、検疫事例)|厚生労働省 (mhlw.go.jp) を参考にしています。

(1)経口感染症:輸入例としてはチフス5人(パキスタン、インドで感染)、A型肝炎3人、ジアルジア3人、細菌性赤痢2人、コレラ1人が発生しています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が3人発生し、前月(2人)と変化ありませんでした。感染国はフィリピン、タイ、インドネシアでした。マラリアの感染は2人で、ウガンダ、エチオピアでの感染でした。

(3)新型コロナウイルス感染症:2023年2月23日〜3月25日までに輸入例として143人が報告されており、前月(163人)よりやや減少しました。このうち中国からの入国者が51人で最も多く、それ以外はフィリピン(19人)、ベトナム(14人)、台湾(13人)、米国、韓国(各12人)などからの入国者でした。

海外医療通信 2023年3月号       

東京医科大学病院 渡航者医療センター

海外感染症流行情報 2023年3月                               

(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況

23年3月は新型コロナウイルスの新規感染者数および死亡者数が世界的に減少しています(WHO Corona virus disease 23-3-22)。ただし、東欧、中東、インドなどで感染者数がやや増加傾向にあります。ウイルスの種類はオミクロン株の組換え型(XBB、XBB1.5など)が世界的に拡大しており、米国ではXBB1.5が9割を(米国CDC 23-3-25)、ヨーロッパでは3割以上を占めています(ヨーロッパCDC 23-3-24)。日本でも新規感染者数は減少しており、ウイルスの種類としてはBQ.1の検出が多くなっています(厚労省アドバイザリーボード会議 23-3-24)。

(2)全世界:インフルエンザの流行状況

北半球でのインフルエンザ流行は3月になり全体的に収束しつつあります(WHO 23-3-20)。北米では感染者数が流行レベル以下になりましたが、ヨーロッパでは流行レベル以上の国がまだ多く、最近ではB型が増えています。東アジアでは中国でA(H1N1)型が増加しており、東南アジアではマレーシアでB型、シンガポールやタイでA(H3N2)型が増加傾向にあります。

(3)アジア:カンボジアと中国で鳥インフルエンザの患者発生

カンボジア南部で、2月末に鳥インフルエンザA(H5N1)型の患者が2人(親子)発生し、子ども1人が死亡しました(WHO 23-2-26)。カンボジアでは2014年以来のH5N1型の患者発生になります。中国の江蘇省でも、1月末に53歳女性がH5N1型を発症しています(Pro MED 23-3-3)。現在、世界的にH5N1型の流行がトリの間で拡大しており、ヒトの感染についても十分な監視が必要です。

(4)アジア:インドネシアでポリオ患者が発生

インドネシアのジャワ島西部で、ワクチン由来株のポリオ患者が1人発生しました(Global Polio Eradication Initiative 23-3-20)。インドネシアでは22年にスマトラ島のアチェで、同じワクチン由来株のポリオ患者が確認されていますが、ジャワ島では初めての発生です。インドネシアに長期滞在する際にはポリオワクチンの追加接種を推奨します。

(5)ヨーロッパ:ボツリヌス菌毒素による肥満治療と副反応

ヨーロッパでボツリヌス菌毒素による肥満症治療後に、この毒素による神経症状を起こした患者が、2月下旬〜3月上旬にかけて71人発生しました(WHO 23-3-24)。患者はトルコ(53人)とドイツ(16人)で多く、トルコの2か所のクリニックで、この毒素による肥満症治療を受けたことが原因でした。ボツリヌス菌毒素は様々な医療行為に用いられていますが、適切に使用されないと神経系の障害を起こします。今回のケースも麻痺などの症状をおこしており、5人がICUで治療を受けました。

(6)アフリカ:赤道ギニアとタンザニアでマールブルグ熱発生

前号でも報告したように、アフリカ中部の赤道ギニアで、今年2月初旬からマールブルグ熱の患者が発生しており、患者数(疑いを含む)は3月中旬までに29人となり、27人が死亡しました(WHO 23-3-22)。当初の患者発生は北東部に限局していましたが、3月になり国内の広い範囲に拡大している模様です。アフリカ東部のタンザニアでも、3月から北西部のカゲラ州でマールブルグ熱の患者が発生しています(WHO Africa 23-3-21)。3月中旬までに患者数は8人で5人が死亡しました。マールブルグ熱は致死率の大変高いウイルス性出血熱で、赤道ギニア、タンザニアともに今回が初めての流行です。

(7)中南米:蚊媒介感染症の患者が増加

中南米で蚊が媒介するデング熱、チクングニア熱の患者数が近年、増加しています(WHO 23-3-23)。デング熱は22年にブラジルなどで280万人の患者が発生しており、21年の2倍以上の数になっています。チクングニア熱の患者は23年が3月初旬までに11万人で、22年同期の4倍に増加しました。とくにパラグアイでの患者発生が多くなっています。こうした蚊媒介感染症の増加は、新型コロナ対策で保健担当者が多忙になり、蚊の駆除が十分に行われていなかったことが一因と考えられています。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2023年2月6日〜23年3月5日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査 2023年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫事例 新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況、検疫事例)|厚生労働省 (mhlw.go.jp) を参考にしています。

(1)経口感染症:輸入例としてはチフス5人(パキスタン、インドで感染)、A型肝炎3人、ジアルジア3人、細菌性赤痢2人、コレラ1人が発生しています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が3人発生し、前月(2人)と変化ありませんでした。感染国はフィリピン、タイ、インドネシアでした。マラリアの感染は2人で、ウガンダ、エチオピアでの感染でした。

(3)新型コロナウイルス感染症:2023年2月23日〜3月25日までに輸入例として143人が報告されており、前月(163人)よりやや減少しました。このうち中国からの入国者が51人で最も多く、それ以外はフィリピン(19人)、ベトナム(14人)、台湾(13人)、米国、韓国(各12人)などからの入国者でした。