海外医療通信 2025年5月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター        

海外感染症流行情報 2025年5月  

(1) アジア:各地でCOVID-19の流行再燃

5月に入り、アジア各地でCOVID-19の患者数が増加しています(WHO西太平洋 25-5-9、WHO南東アジア 25-5-21)。タイでは1週間の患者数が5万人を越え、香港、シンガポール、インドなどでも患者数が増加しています。ウイルスの種類は、オミクロン株JN.1系統に属する新変異株のNB.1.8.1が多く検出されています(WHO COVID-19 25-5-23)。日本でも沖縄県で患者数がやや増加傾向にあり(厚労省 25-5-23)、夏の流行への警戒が必要です。

(2) アジア:蚊媒介感染症の流行状況

アジア各地でデング熱の流行が発生しています(WHO西太平洋 25-5-15、WHO南東アジア 25-5-28)。患者数は全体的に例年並みですが、フィリピンやフィジー、タヒチなど南太平洋の国々では、例年以上の患者数が発生しています(米国CDC Traveler‘s Health 25-5-22)。

一方、スリランカやモーリシャスなどインド洋の国々ではチクングニア熱の流行が拡大しています(米国CDC Traveler‘s Health 25-5-12)。とくにレユニオンでは、昨年8月からの患者数が4万人以上にのぼっています(WHO 25-5-12)。アジアでは蚊の増える雨期が始まっており、滞在時には蚊の吸血を防ぐ対策をとるようにしましょう。

(3) アジア:パプアニューギニアでポリオ感染者が発生

パプアニューギニアでワクチン株由来の2型ポリオウイルス感染者が2例確認されました(WHO 25-5-20)。感染者が発生したのは同国北東部のラエ市で、感染者に症状はありませんでした。隣国のインドネシアでもポリオ患者が発生しており、これらの国々に長期滞在する際には、事前にポリオワクチンの追加接種を受けておくことも検討ください。

(4) 北米:米国などで麻疹の流行が拡大

今年はアメリカ大陸全体で麻疹の患者数が増加しており、4月中旬までに2300人以上にのぼっています(WHO 25-4-28)。これは24年同期に比べて11倍の数です。米国ではテキサス州などを中心に患者数が1000人以上にのぼり、このうち3人が死亡しました(米国CDC 25-5-23)。患者のほとんどは小児で、ワクチンの未接種者でした。

(5) 南米:黄熱の流行拡大

南米では黄熱のアマゾン域外への流行拡大が続いており、24年末から25年4月末までの患者数は212人(死亡者85人)にのぼっています(WHO 25-5-16)。ブラジルではサンパウロ近郊などで110人、コロンビアではトリマなどで83人の患者が発生しました。こうした事態を受けて、近隣国であるエクアドルはブラジルやコロンビアからの入国者に、黄熱ワクチン接種証明書の提示を求めています(外務省海外安全HP 25-5-1)

日本国内での輸入感染症の発生状況(2025年4月7日〜25年5月11日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立健康危機管理研究機構・感染症情報提供サイトの感染症発生動向調査 感染症発生動向調査週報ダウンロード2025年|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト を参考に作成しました。

(1)経口感染症:輸入症例としては細菌性赤痢2人、腸管出血性大腸菌感染症2人、腸チフス2人、パラチフス1人、アメーバ赤痢1人、ジアルジア1人、クリプトスポリジウム1人、A型肝炎4人、E型肝炎2人が発生しています。A型肝炎の感染国はミャンマーが2人、インドネシアとインドが各1人でした。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は11人発生し、前月(4人)より増加しました。感染国はインドネシアが5人、ブラジルとベトナムが各2人でした。マラリアの患者は1人、チクングニア熱は1人で、いずれも感染国はインドネシアでした。

(3)その他の感染症:麻疹の輸入患者が18人発生し、前月と同数でした。ベトナムでの感染が15人と前月同様に多くなっています。侵襲性髄膜炎菌感染症の輸入患者が1人報告され、ネパールでの感染でした。

渡航者医療センターからのお知らせ

東京医科大学病院・渡航者医療センターでは、外来診療に加え、オンラインでのワクチン相談を実施しています。ご自宅や職場から気軽に相談できるため、多くの方にご好評いただいています。相談時間は、主に平日の12:30~13:00と17:30~18:00です。詳しくは、当センターの公式ホームページをご覧ください。 
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