海外医療通信2025年6月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター
海外感染症流行情報 2025年6月
(1) 全世界: 南半球でのインフルエンザの流行
南半球のオーストラリア、アルゼンチン、チリ、南アフリカは冬の季節を迎えており、インフルエンザの流行が始まっています(WHO influenza 25-6-18)。オーストラリアでは昨年並みの患者数が報告されており、A(H1N1)型の検出が多くみられます。また、同国ではCOVID-19の患者数も、6月に入り増加傾向にあります(WHO西太平洋 25-6-23)。
(2)アジア: COVID-19の流行状況アジアの熱帯・亜熱帯地域で再燃していたCOVID-19の流行は、6月も続いています(WHO西太平洋 25-6-23、WHO南東アジア 25-6-18)。中国南部、タイ、インドでは患者数が減少していますが、シンガポール、ベトナム、インドネシアでは患者数が依然として多い状況です。ウイルスとしては新変異株NB.1.8.1型の検出が増えています。WHOは、この株が従来株に比べて伝播力はやや強いものの、免疫回避性や病原性には変化がないとの見解を示しています(WHO 25-5-28)。
(3)アジア:デング熱の流行状況アジア各地で雨期の到来とともにデング熱の流行が発生しています(WHO西太平洋 25-6-2、WHO南東アジア 25-6-18)。患者数は全体的に少なめですが、これから本格的な雨期に入ることから、滞在する際は十分な注意が必要です。
(4)アジア:各地で鳥インフルエンザH5N1の患者発生
アジアでは鳥インフルエンザH5N1型の患者が、最近1か月間で5人発生しています(ヨーロッパCDC 25-6-5,6-19、WHO 25-5-27、香港衛生局 25-5-27)。発生国はカンボジア(2人)、バングラデシュ(2人)、中国(1人)で、ほとんどの患者は病気の家禽との接触がありました。ウイルスの種類は、北米の患者から検出されている型と異なるものとされています。
(5)アフリカ:コレラ患者数の増加
今年、アフリカでは5月末までに11万人のコレラ患者が発生し、うち2400人以上が死亡しました(WHO 25-6-17)。患者発生が多いのはスーダン、南スーダン、コンゴ民主共和国、アンゴラで、内戦などが流行の原因になっています。
(6)ヨーロッパ:ポルトガルでA型肝炎の患者数増加ポルトガルのリスボンなどで、今年になり122人のA型肝炎患者が発生しました(ヨーロッパCDC 25-6-19)。患者の多くは男性間性交渉者(MSM)で、性行為による感染と考えられています。リスボンでは6月中旬に欧州の同性愛者の祭典であるEuro Pride 2025が開催されており、流行の拡大が懸念されています。
(7)南米:ブラジルでの蚊媒介感染症の拡大
今年はブラジルで蚊媒介感染症が拡大しています。5月末までにチクングニア熱の患者は10万人(米州保健機関 25-6-7)、ジカ熱は1万4000人(英国National Travel Health Network Center)にのぼっており、デング熱の患者数増加や黄熱の流行地域拡大なども報告されています。ブラジルに滞在する際は蚊媒介感染症への十分な注意が必要です。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2025年5月12日〜25年6月8日)最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立健康危機管理研究機構・感染症情報提供サイトの感染症発生動向調査 感染症発生動向調査週報ダウンロード2025年|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト を参考に作成しました。
(1)経口感染症:輸入症例としては細菌性赤痢2人、腸管出血性大腸菌感染症17人、腸チフス2人、アメーバ赤痢3人、A型肝炎2人が発生しています。腸管出血性大腸菌感染症は前月(2人)から大幅に増加し、韓国での感染が9人と多くなっています。
(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は8人発生し、前月(11人)よりやや減少しました。感染国はインドネシアが4人で最多でした。マラリア(三日熱)の患者は1人で、感染国はタイでした。
(3)その他の感染症:麻疹の輸入患者が7人発生し、前月(18人)より減少しました。ベトナムでの感染が4人と多くなっています。レプトスピラ症の輸入患者が1人報告され、南米での感染でした。
・渡航者医療センターからのお知らせ
2025年6月1日に「海外勤務と健康.org」を更新しましたので、ご覧ください。
「海外勤務と健康.org ~海外進出企業の健康管理担当者が見ておきたいサイト~」 https://bis-heal.org/