海外医療通信 2021年7月号 : 東京医科大学病院 渡航者医療センター・海外感染症流行情報            

海外医療通信 2021年7月号

海外感染症流行情報 

(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況

新型コロナウイルスの累積感染者数は7月下旬までに約1億9000万人、死亡者数は約410万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2021-7-25)。6月以降、デルタ型変異株の拡大により新規感染者数が世界的に増加しており、7月はその傾向がさらに顕著になっています(WHO Corona virus disease 2021-7-20)。地域別では東南アジアで感染者数が増えており、とくにインドネシア、マレーシア、タイなどで急増しています。また、ワクチン接種により流行が収束傾向にあったヨーロッパ諸国や米国でも再燃がみられています。デルタ型は感染力が強いとともに、重症化も起こしやすいとされています。一方、ファイザー社やモデルナ社など欧米製のワクチンについては、発症予防効果がやや低下するものの、重症化は防げるとする報告がみられます。

なお、日本政府は海外在留邦人を対象に、一時帰国によるワクチン接種を8月から開始します。使用するのはファーザー社製のワクチンで、2回接種(3週間隔)が必要です。詳細については外務省の下記ホームページをご参照ください。

外務省 海外安全ホームページ|新型コロナウイルスに係る日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国に際しての条件・行動制限措置 (mofa.go.jp)

(2)アジア:東南アジアでのデング熱流行状況

今年は東南アジア各国のデング熱患者数が例年よりも少ない状態で推移しています(WHO西太平洋 2021-7-15)。7月は多くの国が雨期に入っていますが、患者数の大きな変化はみられていません。なお、ベトナムは7月までの患者数が3万7000人で昨年とほぼ同数であり、今後、さらに増加する可能性があります。

(3)アジア:中国で鳥インフルエンザ患者が発生

中国では今年になり、H5N6型の鳥インフルエンザ患者が散発しています。ここ1ヶ月は四川省で3人、重慶市で1人が確認されました(Outbreak News Today 2021-7-14, 21)。患者は全員が50歳以上で1人は死亡し、他の3人も重症です。2014年からの累積患者数は35人になりました。

(4)アフリカ:ナイジェリアでサル痘が流行

西アフリカのナイジェリアでは2017年からサル痘の流行が発生しており、2021年は6月までに13人の患者が確認されましたOutbreak News Today 2021-7-20)。ナイジェリアから欧米諸国への輸入例も増えており、英国で3人、米国で1人が確認されています(WHO 2021-7-8、Outbreak News Today 2021-7-16)。サル痘はサルの体液などに接触して感染します。ヒトが感染すると皮膚症状などを起こしますが、通常は軽症で治癒します。ヒトからヒトに飛沫感染することもあります。

(5)ヨーロッパ:英国でノロウイルスの患者が多発

英国のイングランドで、6月に入ってからノロウイルスの患者が5週間で154人確認されましたOutbreak News Today 2021-7-16)。過去5年間をみても、この時期としては3倍の数です。ノロウイルスは一般に冬季に流行する経口感染症です。今回の流行は、同国が新型コロナの流行対策を緩和していることが一因とみられています。

(6)南米:ブラジルで蚊媒介感染症が増加

ブラジルで今年になり蚊媒介感染症が増加しています。南部のサンパウロ市では6月までにデング熱患者が約6500人発生しました(Outbreak News Today 2021-7-6)。昨年の患者数は1年間に2000人で、大幅に増加しているのが分かります。隣接するサントス市でもチクングニア熱の患者が約5000人確認されました。ブラジル中部の海岸沿いにあるバイア州では、マラリアの患者発生が確認されています(Fit For Travel 2021-7-19)。同州ではマラリアの流行が最近なく、アマゾンなどから持ち込まれたものとみられています。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2021年6月7日~2021年7月4日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2021年 (niid.go.jp)を参考に作成しました。新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2021年7月16日) 【HP掲載用】0703まで検査実績 (mhlw.go.jp) を参考にしています。

(1)経口感染症:輸入例としては腸管出血性大腸菌が1人、ジアルジアが1人でした。

(2)昆虫が媒介する感染症:マラリア、デング熱の事例はこの期間に報告されませんでした。

(3)新型コロナウイルス感染症:2021年6月6日~7月3日までに168人が輸入例として報告されており、前月(161人)とほぼ同数でした。このうち外国籍者は87人でした。感染者の滞在国で多かったのは、インドネシア36人(外国籍22人)、フィリピン20人(外国籍16人)、米国10人、ロシア、UAE、インド各9人、英国、ブラジル各7人でした。

(4)その他:米国でQ熱に感染した事例が報告されました。Q熱の病原体であるリケッチアは、感染した動物の糞尿中に排泄されます。ヒトはこの病原体を吸い込んで感染します。インフルエンザ様の症状とともに肺炎や心内膜炎など重篤な症状を起こすこともあります。

今月の海外医療トピックス

帯状疱疹について

私が毎年楽しみにしている夏の寄席が,今年は緊急事態宣言のため中止になりました.夏の寄席の醍醐味といえば怪談噺ですが,その一つに「四谷怪談」があります.片側が酷く腫れた「お岩さん」の顔貌は、一説によれば帯状疱疹が原因と言われています.

水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染で発症するものを「水痘(水ぼうそう)」といいます.水痘は空気・飛沫・接触感染し,全身に水疱をおこします.そして,水痘の感染歴がある人の神経に長年潜んでいたウイルスが、再活性化して発症するのを「帯状疱疹」と呼びます.お岩さんのように顔面から足まで、全身の片側どこにでも発赤や水疱が現れます.耐え難い痛みも伴います.患者さんの中には,皮膚症状が治っても痛みが残り,長く悩まされる人もいます.日本では2014年の水痘ワクチンの定期接種化により水痘の患者数は減少しましたが、高齢化により帯状疱疹の患者数増加が心配されています.帯状疱疹もワクチンで予防が可能ですので、50歳以上の方は、ぜひ、お近くの内科,皮膚科,トラベルクリニックにご相談ください.(助教 栗田直)

<参考>国立感染症研究所:https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2433-iasr/related-articles/related-articles-462/8236-462r08.html