海外医療通信 2022年1月号 : 東京医科大学病院 渡航者医療センター・海外感染症流行情報
海外医療通信 2022年1月号
(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況
全世界でオミクロン株の感染者が急増しています(WHO Corona virus disease 2022-1-18)。この1か月は南アジア、中東、東南アジア、日本などで感染者数の増加が顕著です。その一方で、南アフリカや英国では流行がピークを越えた模様です。オミクロン株は感染力が強いとともに、ワクチンの効果が減弱しており、予防のためには追加接種が必要です。重症化する者は少なく、世界各国での死亡者数はある程度抑えられています。
日本ではオミクロン株の発生にともない2021年11月下旬から水際対策が強化されました。入国者全員に入国後10日間は自宅待機などによる健康監視措置がとられるとともに、出発国によっては検疫所の指定する施設で一定期間の停留措置が求められます。水際対策に係る新たな措置について|厚生労働省 (mhlw.go.jp) なお、日本での新型コロナワクチンの追加接種は2021年12月から始まっていますが、1月中旬時点で追加接種率が2%以下と大変低い状況です。
(2)全世界:季節性インフルエンザの流行状況
北半球の温帯地域ではインフルエンザの患者数が昨シーズンに比べて増加傾向にあります(WHO Influenza 2022-1-10)。米国では東部や中部で2021年12月からA(H3N2)型の患者数が増加していましたが、2022年1月中旬には減少しています(CDC Flu view 2022-1-21)。ヨーロッパでは北欧やロシアなどでA(H3N2)型が増加しています(ヨーロッパCDC 2022-1-21)。アジアでは中国でB型の患者数が若干増加している模様です(WHO Influenza 2022-1-10)。
(3)アジア:中国で鳥インフルエンザ患者の発生続く
中国では2021年にH5N6型の鳥インフルエンザ患者が多発しており、年間の患者数が36人になりました(香港衛生局CHP 2022-1-13)。2014年からの累計患者数は63人で、この半数以上が2021年に発生しています。2021年12月も5名の患者が四川省、江西省、浙江省で確認されており、うち2名が死亡しました。
(4)ヨーロッパ:英国で髄膜炎菌感染症が増加
英国では2021年9月からB群髄膜炎菌感染症の流行が現地の大学などでみられています。英国では新型コロナ対策の強化で、同じく飛沫感染する髄膜炎菌感染症の患者数が低下していましたが、昨年夏のコロナ対策緩和以降、患者数が増加しているようです。なお、B群髄膜炎菌感染症には日本で承認されているワクチンが無効です。
(5)ヨーロッパ:英国で鳥インフルエンザの感染者が発生
英国南西部で70歳男性が鳥インフルエンザH5N1型に感染したことが明らかになりました(WHO disease outbreak news 2022-1-14, ヨーロッパCDC 2022-1-14)。この男性は無症状で、同地域で鳥の流行が発生した際に検査を受けて感染が判明しました。H5N1型の鳥インフルエンザは2003年から全世界で863人の患者が確認されており、うち455人が死亡しています。最近は鳥の流行は起きていますが、ヒトの感染者は少なくなっていました。
(6)北米:米国アリゾナ州で西ナイル熱患者が増加
米国のアリゾナ州で2021年に西ナイル熱の患者が1567人発生し、うち110人が死亡しました(Outbreak News Today 2022-1-5)。患者の8割以上は州都フェニックス近郊のMaricpaで確認されています。同州の2003年から2020年までの累積患者数は1939人であり、2021年は大きく増加しています。西ナイル熱は蚊に媒介される感染症で、昨年は雨が多かったことや新型コロナ対策で蚊の駆除が滞ったことなどが増加の原因と考えられています。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2021年12月13日~22年1月9日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2021年 (niid.go.jp), 2022年 (niid.go.jp)を参考に作成しました。新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2022年1月21日)000881489.pdf (mhlw.go.jp)を参考にしています。
(1)経口感染症:輸入例としては腸管出血性大腸菌が1人、腸チフスが2人、アメーバ赤痢が3人発生しました。腸チフスの感染国はパキスタンとウズベキスタンでした。
(2)昆虫が媒介する感染症:マラリアが3人(コートジボアール、シェラレオネ、ナイジェリアで感染)、デング熱が1人(インドネシアで感染)でした。デング熱は今年の累計数が8人で、2019年の461人、2020年の43人から大きく減少しました。
(3)新型コロナウイルス感染症:2021年12月12日~22年1月8日までに2114人が輸入例として報告されており、前月(248人)に比べて10倍近くに増加しました。このうち外国籍者は989人でした。感染者の滞在国で多かったのは、米国1036人(外国籍488人)、フィリピン126人(外国籍99人)、インド107人(外国籍98人)、英国100人(外国籍22人)、アラブ首長国連邦54人、カナダ53人でした。
・今月の海外医療トピックス
今週、デジタル庁の新型コロナワクチン接種状況ダッシュボードに、3回目接種数の円グラフが加わりました。1月24日時点で、わが国の人口の75%弱が2回目接種をしており、約2%が3回目接種を終えています。3回目対象者は、2回目を完了した日から一定期間が経過した人とされており、医療従事者か否か、65歳以上か否かでその期間は異なります。日本で2回目接種が最も多かった時期は、2021年の夏から秋にかけてでした。その頃に接種した人が3回目の接種が可能になるのは、2回目接種から6カ月~7か月後、つまり今年の春頃になります。卒業や入学、異動等で転居と重なる人も多いのではないでしょうか。ワクチンは原則、住民票所在地で接種を受けることになっており、住民票とは異なる住所地で接種を希望する場合、厚生労働省HP内の「住所地外接種届」が必要です。なお、外務省は1月20日に‘海外在留邦人等向け新型コロナワクチン接種’事業の延長を発表しましたが、2回接種済みの方への3回目接種は行っていません。状況により接種方法が様々ですので、情報をよくご確認ください。(助教 栗田直)
【参考】・ワクチン接種記録システム(VRS)https://info.vrs.digital.go.jp/dashboard
・海外在留邦人向け新型コロナワクチン接種予約サイトhttps://mar.s-kantan.jp/mofa-v-u/reserve/offerList_initDisplay.action
・渡航者医療センターからのお知らせ
黄熱ワクチンの接種が毎日受けられます
当センターの黄熱ワクチン接種日が月曜日から金曜日までに拡大されました。また、従来は問診日と接種日が別でしたが、同日に受けることができます。黄熱以外のワクチンの同時接種も可能です。詳細は当センターのホームページをご覧ください。黄熱ワクチン|渡航者医療センター|診療部門案内|東京医科大学病院 (tokyo-med.ac.jp)