海外医療通信 2025年9月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター
海外感染症流行情報 2025年9月
欧米諸国や日本では、COVID-19の夏の流行が収束傾向にあります(米国CDC 25-9-13、ヨーロッパCDC 25-9-26、厚生労働省 25-9-26)。ウイルスの種類は、世界的にXFG型が7割近くを占めていますが、日本ではNB.1.8.1型が多くなっています(WHO COVID-19 dashboard 25-9-23)。いずれの種類も重症度には変化が見られません。
(2)アジア:タイ、マレーシアでの狂犬病流行
タイ保健当局は9月中旬、バンコク市内のイヌに狂犬病感染が確認されたことから、警戒を呼び掛けています(ヨーロッパCDC 25-9-19)。タイでは24年1月~25年3月までに8人の狂犬病患者が報告されており、全員が死亡しています。また、マレーシアのサワラク州に位置するクチンでも、9月に2人の狂犬病患者が報告されました(ProMED 25-9-23)。同州では17年から87人の患者が発生しています。
(3)アジア:デング熱の流行状況
東南アジアや南アジアの国々ではデング熱の流行期を迎えており、患者数は昨年と比べて同等かやや少ない状況です(WHO西太平洋 25-9-18、WHO南東アジア 25-9-24)。一方、南太平洋のフィジーやサモアなどでは、今年の患者数が例年よりも増加しています(米国CDC Traveler‘s Health 25-9-16)。
(4)アジア:モンゴルでペスト患者が発生
モンゴル北部のフブスグル県で腺ペストの患者が3人発生し、うち1人が死亡しました(ProMED 25-9-10)。モンゴルでは毎年夏から秋にかけて、げっ歯類の肉を食べてペストに感染する患者が報告されています(外務省在モンゴル大使館 25-9-10)。お祝いの席でこの肉が提供されることもあるので、現地に滞在する際は注意が必要です。
(5)アジア:ネパール南部でコレラが流行
ネパール南部のビルガンジなどで、8月中旬からコレラの流行が発生しています(WHO南東アジア 25-9-24)。9月中旬までに患者数は1500人以上にのぼっていますが、新しい患者の発生は減少傾向にあります。
(6)アフリカ:コンゴ民主共和国でエボラ熱が発生
コンゴ民主共和国の南部にあるカサイ州で、8月下旬からエボラ熱の患者が発生しています。9月下旬までに患者数は58人(疑い含む)で、このうち37人が死亡しました(ヨーロッパCDC 25-9-26)。患者の年齢は15歳以下の小児が多くなっています。同国では22年にも北部でエボラ熱が流行しました。
(7)日本:エムポックスⅠb型の患者が発生
日本の神戸市で20歳代の女性がエムポックスⅠb型に感染していることが確認されました(厚生労働省 25-9-16)。患者はアフリカへの渡航歴があり、帰国後に発疹などの症状がでています。日本では今までに254人のエムポックス患者が報告されていますが、全てⅡb型の患者で、Ⅰb型は今回が初めてです。Ⅰb型はアフリカ中部で24年から拡大しており、Ⅱb型よりも重症化しやすいとされています。主な感染経路は患者の皮膚病変や体液からの接触感染です。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2025年8月11日〜9月7日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立健康危機管理研究機構・感染症情報提供サイトの感染症発生動向調査 感染症発生動向調査週報ダウンロード2025年|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト を参考に作成しました。
(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢3人、腸管出血性大腸菌感染症34人、腸チフス5人、パラチフス2人、A型肝炎3人、クリプトスポリジウム2人が報告されています。腸管出血性大腸菌感染症は前月(29人)から増加しており、韓国での感染が22人と多くなっています。
(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は18人報告され、前月(16人)とほぼ同数でした。感染国はインドが5人と最多で、タイ、フィリピン、インドネシアが各3人で続きました。なお、今年のデング熱輸入例の累積数は110人で、昨年同期の165人に比べて減少しています。マラリアの患者は2人で、いずれもガーナでの感染でした。チクングニア熱の患者は5人報告されており、感染国はフィリピンとタイが各2人、スリランカが1人でした。マダニに媒介される日本紅斑熱の輸入例が1人報告されており、スリランカでの感染でした。
(3)その他の感染症:麻疹の輸入例は3人報告されており、全員が東南アジアでの感染でした。
・渡航者医療センターからのお知らせ
9月28日は何の日かご存じでしょうか。 この日は、狂犬病ウイルスを発見したルイ・パスツールの命日にちなみ、「世界狂犬病デー(World Rabies Day)」として定められています。
狂犬病は、リスクの高い国での動物による咬傷をきっかけに感染する可能性があり、発症すればほぼ100%の致死率となる極めて重篤な疾患ですが、狂犬病ワクチンで予防可能な感染症でもあります。狂犬病ワクチンの接種を促す啓発活動や、正確な情報の共有は、海外渡航者の命を守る最前線の力となります。渡航医学に携わる皆様の知識と行動が、感染予防の鍵を握っています。この世界狂犬病デーを機に、狂犬病ゼロの未来に向けて、私たち一人ひとりができることを改めて見つめ直してみませんか。