海外医療通信 2021年6月号 : 東京医科大学病院 渡航者医療センター・海外感染症流行情報
海外医療通信 2021年6月号
海外感染症流行情報 2021年6月
(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況
新型コロナウイルスの累積感染者数は6月下旬までに約1億8000万人、死亡者数は約390万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2021-6-24)。世界全体としてみると、5月以降、新規感染者数は減っていますが、地域的にはアフリカ南部(南アフリカ、ザンビアなど)や南米(ブラジル、コロンビアなど)など南半球で増加がみられます(WHO Corona virus disease 2021-6-22)。また英国、ロシアなどではデルタ型変異株による再燃が起きています。さらに、今まで感染者数の少なかった東南アジア(マレーシア、タイなど)や東アジア(モンゴルなど)でも新規感染者数の増加が起きています。今後、世界的にワクチン接種が進むことにより流行は収束に向かうと予想されますが、感染力の強いデルタ型変異株の流行が世界各地に拡大しており、予断を許しません。
なお、日本政府は水際対策の強化を継続しており、海外から日本への入国は大幅に制限されています。日本への入国にあたっては、検疫所のホームページなどから十分な情報を入手してください。新型コロナウイルス感染症の検疫手続き (forth.go.jp)
(2)アジア:デング熱の流行状況
東南アジア各国のデング熱患者数は例年より少なくなっています(WHO西太平洋 2021-6-3)。マレーシアは累積患者数が1万1,000人、フィリピンは2万1,000人、シンガポールは2,600人と昨年に比べて減少しています。一方、ベトナムは2万8,000人で、昨年とほぼ同数になっています。今後、東南アジアの広い範囲が蚊の増殖する雨季を迎えるため、引き続き注意が必要です。
(3)アジア:中国で新しい種類の鳥インフルエンザの患者が発生
中国の江蘇省で鳥インフルエンザH10N3型ウイルスの感染者が発生しました(WHO 2021-6-10)。患者は41歳男性で症状は軽いとのことです。H10N3型はトリにも低病原性のウイルスで、ヒトへの感染例は今回が初めてです。この男性がトリとの接触で感染したかは明らかになっていません。なお、中国の四川省では49歳女性がH5N6型ウイルスに感染し、重体になっています(Outbreak News Today 2021-6-13)。H5N6型は2014年以来、中国で31例が報告されています。
(4)アフリカ:ギニアでのエボラ出血熱流行が終息
今年1月から西アフリカ・ギニアでみられていたエボラ出血熱の流行は、6月19日に終息宣言が出されました(WHO 2021-6-19)。今回の流行では23人の患者(疑いを含む)が発生し、うち12人が死亡しています。中央アフリカ・コンゴ民主共和国の流行も5月に終息宣言が出されており、現在、アフリカではエボラ出血熱の流行が全て終息しています。
(5)中米:中米諸国で各種感染症が再興
中米・パナマで東部を中心にマラリア患者が今年に入り増加しています(Outbreak News Today 2021-6-7)。患者数は5月までに1500人以上になりました。カリブ海のドミニカ共和国ではジフテリア患者が増加しており、今年は6月までに12人の患者が発生し9人が死亡しました(米国CDC Travelers’ Health 2021-6-3)。ワクチン接種率の低下が原因と考えられています。中米では新型コロナウイルスの流行にともない、蚊の対策やワクチンの定期接種が停滞しており、それによる感染症の再興がみられている模様です。
(6)南半球:季節性インフルエンザの流行はみられず
南半球の温帯地域は6月になり冬の季節を迎えていますが、季節性インフルエンザの流行が今年もおきていません(WHO Influenza 2021-6-23)。オーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチン、南アフリカなどでは、インフルエンザ患者の報告がほとんどない状況です。これは新型コロナウイルスの流行により、国際的な人の移動が制限されていることや、飛沫感染対策が効を奏しているためと考えられています。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2021年5月10日~2021年6月6日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典 2021年 (niid.go.jp) 新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2021年6月18日)を参考にしています。出典 000776814.pdf (mhlw.go.jp)
(1)経口感染症:輸入例としてはジアルジアが1人だけでした。
(2)昆虫が媒介する感染症:マラリアが1人報告されており、カメルーンでの感染例でした。デング熱の事例はこの期間に報告されませんでした。
(3)新型コロナウイルス感染症:2021年5月9日~6月5日までに161人が輸入例として報告されており、前月(311人)より半減しました。このうち外国籍者が95人と約6割を占めています。感染者の滞在国で多かったのは、インド67人(外国籍35人)、フィリピン22人(外国籍6人)、アフガニスタン17人(外国籍17人)、米国9人(外国籍5人)でした。
・今月の海外医療トピックス
この夏は東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定です.コロナ以前から,東京オリンピック開催で流行が懸念されている感染症は複数ありますが,その一つが蚊媒介感染症のデング熱です.デング熱は,海外の熱帯・亜熱帯地域を中心に広く流行しており,世界では年間約1億人の患者が発生しています.予防薬や治療薬はないため,蚊よけ対策が重要です.2009年以前,日本への輸入例は年間100例未満でしたが,その後増加し,2019年は461例でした.2014年夏には,代々木公園を中心に100人超のデング熱患者が発生しました.媒介するヒトスジシマカは,日本の本州以南に棲息しています.海外との人の往来の増加で,流行地域滞在者が病原体を日本に持ち込み,流行するリスクが年々高まっています.そのため,日本国内でも夏は国籍に関わらず,蚊よけ対策が必要です.特にこの夏は,木を見て森を見ずとならぬよう,コロナ以外の感染症のリスクや全体像を見ることも忘れてはならないと思います.(渡航者医療センター・助教 栗田直)
参考: 海外渡航と病気.org (tra-dis.org)
・渡航者医療センターからのお知らせ
オンラインによるワクチン相談
渡航者医療センターではオンラインによるワクチン相談サービスを提供しています(有料)。オンライン診療で、渡航地域に応じたワクチン接種プランの提示や、留学に必要な書類の作成アドバイスを行います。詳細は下記をご覧ください。
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200729_2.html