海外医療通信 2022年12月号 東京医科大学病院渡航者医療センター

海外感染症流行情報 2022年12月

(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況

12月は新型コロナウイルスの世界的な流行状況に大きな変化はありません(WHO Corona virus disease 2022-12-22)。この期間、東アジア(日本、中国など)や南米(ブラジル、アルゼンチンなど)で、感染者数の増加が見られています。ウイルスの種類はオミクロン株のBA.5が引き続き主流ですが、その子孫にあたるBQ.1の占める割合が世界的に増加傾向にあります。日本では第8波の流行が続いており、今後、年末年始にかけて感染者数が増加すると予想されています。なお、日本国内ではオミクロン株対応ワクチンの追加接種が進んでいますが、外務省は海外在留邦人向けに、このワクチンを空港で接種する対応をとっています。外務省 海外安全ホームページ|日本での新型コロナウイルス・ワクチン接種を希望する海外在留邦人等の皆様へのお知らせ (mofa.go.jp) 

(2)全世界:インフルエンザの流行状況 

北半球でインフルエンザの流行が拡大しています(WHO 22-12-23)。米国では流行がピークを越えていますが、新型コロナの流行前以上の患者数になっています(米国CDC fluview 22-12-23)。また、入院患者数も過去10年で最高レベルに達しています。ヨーロッパでも各国で患者数が流行レベル以上になっています。東アジアでは中国南部や韓国で患者数が増えていますが、まだ流行レベルには達していない模様です。なお、ウイルスの種類としては世界的にA(H3N2)型が主流になっています。 

(3)全世界:鳥インフルエンザ(H5N1型)のヒト感染例 

高病原性鳥インフルエンザH5N1型の感染者は、2003年からアジアなどで800人以上発生しています。2016年頃からは報告例が少なくなっていましたが、昨年末から6人の感染者が報告されました。このうち2人は中国・広西自治区とベトナム・北部での患者で、いずれも重症でした(Outbreak News Today 22-10-20, 11-30)。これ以外は、英国で1人、米国で1人、スペインで2人が確認されており、トリの流行の対処中に感染した事例です(WHO 22-1-14 ,5-6, 11-3)。米国の事例は倦怠感を訴えていましたが、それ以外は無症状でした。現在、H5N1型のトリへの流行が世界的に拡大しており、ヒトへの感染についても警戒が必要です。 

(4)アジア:アジア各地のデング熱流行状況 

東南アジアや南アジアでは、12月に入ってもデング熱の患者発生が報告されています。ベトナムでは、ハノイで1週間に1000人を越える患者が発生しており、全国の年間累積患者数は35万人になりました(Outbreak News Today 22-12-10, 24)。これは昨年の5倍の数になります。インドでも、12月になりデリーで260人の患者が報告されています(Outbreak News Today 22-12-14)。亜熱帯地域では気温が低下していますが、引き続き蚊に刺されない注意が必要です。 

(5)アジア:インドネシアでのポリオ患者発生(続報) 

インドネシアのスマトラ島北部のアチェで、11月にポリオ患者が1名(7歳男児)発生したことを前号で報告しました。その後の調査によれば、同地域で3人の感染者が確認されました(WHO 22-12-19)。今回の感染者から検出されたのは全てワクチン由来の2型ウイルスで、感染源は同一と考えられています。なお、米国CDCはインドネシアに滞在する者に、ポリオワクチンの追加接種(1回)を推奨しています(米国CDC Traveler’s Health 22-11-28)。 

(6)アフリカ:ウガンダでのエボラ熱流行は鎮静化 

東アフリカのウガンダで今年9月からエボラ熱が流行していましたが、12月に入ってから新しい患者発生は見られていません(ヨーロッパCDC 22-12-23)。現在までに患者数は142人で、このうち55人が死亡しました。このままの状況が続けば、間もなく流行終息宣言が発出される予定です。 

(7)ヨーロッパ:英国などで侵襲性A群溶連菌の患者増加 

ヨーロッパで侵襲性A群溶連菌の患者が増加しており、英国では500人以上にのぼっています(WHO 22-12-15)。A群溶連菌は咽頭炎や皮膚感染を起こす病原体ですが、肺炎、筋肉壊死、ショックなど侵襲性の病気を起こすこともあります。今回、ヨーロッパで増えているのは侵襲性の患者で、英国以外に、フランスやオランダなどでも患者数が増加しています。また、米国CDCは、コロラド州で侵襲性の患者が増えているとの警告を発しています(米国CDC 22-12-22)。A群溶連菌は飛沫感染などで拡大するため、流行国では予防に心がけてください。 

日本国内での輸入感染症の発生状況(2022年11月7日~12月11日) 

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査 感染症発生動向調査週報 (IDWR) (niid.go.jp) を参考に作成しました。新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫事例 新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況、検疫事例)|厚生労働省 (mhlw.go.jp) を参考にしています。 

(1)経口感染症:輸入例としては腸管出血性大腸菌感染症3人、アメーバ赤痢1人、A型肝炎2人が発生しています。 

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が9人発生し、前月(8人)と変化ありませんでした。感染国はベトナム(4人)、ネパール(3人)、インド、ペルー(各1人)でした。マラリアの感染は3人で、カメルーン(2人)、タンザニア(1人)での感染でした。 

(3)新型コロナウイルス感染症:2022年12月1日~25日までに輸入例として116人が報告されています。感染者の滞在国で多かったのは、カタール(37人)、米国(13人)、オーストラリア(7人)、中国(7人)、韓国(6人)、ベトナム(6人)でした(複数国滞在者は含まない)。 

(4)その他の感染症:アルゼンチンで多包虫症に感染した事例が1人報告されました。本症に感染したイヌやキツネの糞に病原体が排泄され、これに汚染された水や食品を経口摂取して感染します。症状としては肝臓に多発性腫瘤(のう胞)を形成します。 

東京医科大学病院・渡航者医療センターからのお知らせ 

当センターでは、「黄熱ワクチン接種後の黄熱ウイルス抗体価の持続性に関する研究」を実施しています。本研究は下記の方を対象に黄熱ウイルス抗体価を測定しています。 

・黄熱ワクチンの1回のみ接種歴があり、接種日から5年以上経過した日本人成人 

・黄熱ワクチンの接種歴を確認できる記録を有する者 

この研究について詳しくお知りになりたい場合は渡航者医療センターまでご連絡ください。