海外医療通信2025年7月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター          

海外感染症流行情報 2025年7月 

(1)全世界: COVID-19の流行状況

COVID-19の患者数は7月に入り欧米諸国や日本で増加傾向にあり、夏の流行期に入ったと見られています(米国CDC 25-7-18、ヨーロッパCDC 25-7-18、厚生労働省 25-7-18)。ウイルスの種類は、オミクロン株派生型であるNB.1.8.1型やXFG型が世界的に拡大しています(WHO corona 25-6-25)。 

(2)全世界:南半球などでのインフルエンザ流行

南半球は冬の季節を迎えており、各地でインフルエンザの流行が発生しています(WHO influenza 25-7-16)。オーストラリアやニュージーランドでの患者数は昨年並みで(WHO西太平洋 25-7-16)、ウイルスの種類はA(H1N1)型が多く見られます。また、南アジアのバングラディッシュでも、7月に入りB型インフルエンザの流行が発生しています(WHO南東アジア 25-7-16)。 

(3)アジア:韓国でのマラリア流行

韓国の北朝鮮国境近くにある江華島で三日熱マラリアの患者が発生しており、7月中旬にマラリア警報が発令されました(ProMED 25-7-21)。韓国では毎年夏季に北朝鮮国境付近でマラリア患者の発生が報告されており、こうした場所に滞在する際は蚊に刺されない注意を心がけてください。 

(4)アジア:中国南部でのチクングニア熱の流行

中国南部にある広東省の仏山市で、蚊に媒介されるチクングニア熱の流行が発生しています(香港衛生局 25-7-16)。輸入例を発端とした域内流行で、7月中旬までに患者数は400人以上にのぼっています。今年は南アジアのバングラディッシュやモーリシャスでも、チクングニア熱の患者が増加しており(英国National Travel Health Network Center 25-7-10)、周辺諸国への拡大が懸念されています。 

(5)アジア:カンボジアで鳥インフルエンザの患者多発

カンボジアでは今年に入り、鳥インフルエンザH5N1の患者が7月中旬までに13人発生し、うち6人が死亡しました(WHO 25-7-5, WHO西太平洋 25-7-18)。同国では23年から患者数が増加しており、今年はシュムリアップやタケオなどで発生数が多くなっています。感染源はウイルスを保有する家禽で、ヒトからヒトへの感染は起きていません。 

(6)アジア:インド南部でニパウイルス感染症の患者が発生

インド南部のケララ州で、7月にニパウイルス感染症の患者が3人発生しました。このうち2人が死亡しています(WHO南東アジア 25-7-16)。ニパウイルスはコウモリが保有しており、それに接触するなどして感染し、急性脳炎を起こします。インドやバングラディッシュが流行地域になります。 

(7)ヨーロッパ:フランスなどで蚊媒介感染症の患者が発生

フランスでは7月中旬までにチクングニア熱の国内感染例が30人発生しました(ヨーロッパCDC 25-7-18)。患者の発生は地中海岸で多くなっています。また、デング熱の国内感染例が同国南部で1人確認されました。イタリア北部でもチクングニア熱とデング熱の患者が、それぞれ一人ずつ報告さています。夏にヨーロッパの地中海沿岸に滞在する際は、蚊媒介感染症に注意する必要があります。 

日本国内での輸入感染症の発生状況(2025年6月9日〜7月6日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立健康危機管理研究機構・感染症情報提供サイトの感染症発生動向調査 感染症発生動向調査週報ダウンロード2025年|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト を参考に作成しました。 

(1)経口感染症:輸入症例としては腸管出血性大腸菌感染症23人、腸チフス2人、アメーバ赤痢1人、ジアルジア症2人、A型肝炎1人が報告されています。腸管出血性大腸菌感染症は前月(17人)から増加しており、韓国での感染が14人と多くなっています。 

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は7人報告され、前月(8人)と変化ありませんでした。感染国はインドネシアが4人で半分を占めています。マラリアの患者は4人で、感染国はタンザニア、ナイジェリア、エチオピア、ミャンマーが各1人でした。チクングニア熱の患者が2人報告されており、スリランカとインドネシアでの感染でした。 

(3)その他の感染症:麻疹の輸入患者はこの期間は報告されませんでした。レプトスピラ症の輸入患者が1人報告され、インドネシアでの感染でした。マダニに媒介されるライム病の輸入患者が1人報告され、ヨーロッパ北部のエストニアでの感染でした。 

渡航者医療センターからのお知らせ

当センターの福島センター長が編集する「海外勤務と健康.org」を定期的に更新しています。 

今月はコラム 「海外勤務とメンタルヘルス5」をアップしましたので、ご興味のある方は是非ご覧ください。 「海外勤務と健康.org ~海外進出企業の健康管理担当者が見ておきたいサイト~」 https://bis-heal.org/