海外医療通信2023年5月号 東京医科大学病院渡航者医療センター
海外感染症流行情報 2023年5月
(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況
5月は東南アジアや東アジアで、新型コロナウイルスの感染者数が増加傾向にあります(WHO Corona virus disease 23-5-25)。ウイルスの種類はオミクロン株の亜型であるXBBが拡大しており、とくにXBB.1.16とWBB.1.91が増加しています。
WHOは5月5日に、新型コロナに対する「公衆衛生上の緊急事態」を約3年ぶりに解除しました(WHO 23-5-5)。これにともない日本の外務省も、全世界に発出していた感染症危険情報のレベル1(十分注意してください)を5月8日に解除しました。また、日本政府は5月8日に新型コロナを感染症法上の5類に移行し、各種感染対策の緩和を行っています。
(2)全世界:インフルエンザの流行状況
5月になり北半球でのインフルエンザ流行は収束しています(WHO Influenza Update 23-5-15)。その一方で、冬に入った南半球のオーストラリア、チリ、南アフリカで、インフルエンザの患者数が増加傾向にあります。香港やシンガポールでもA型の患者がやや増加しています。
(3)全世界:サル痘の流行状況
WHOは5月11日にサル痘に対する「公衆衛生上の緊急事態」を解除しました(WHO 23-5-11)。5月末までに累積患者数は世界111か国で8万70000人にのぼっており、最近は西太平洋地区の日本、韓国、中国で発生数がやや増加しています(WHO 23-5-23)。
(4)アジア:インド、インドネシアでの麻疹流行
今年はアジア各地で麻疹の流行が発生し、最近1か月でもインドで6万8000人、インドネシアで5000人以上の患者が確認されています(米国CDC Global Health 23-5-12)。インドネシアでは西ジャワ州や中部パプアでの患者発生が多いとのことです(WHO 23-4-28)。この原因は、新型コロナの流行で小児へのワクチン接種が滞ったためと考えられています。日本では30歳代~50歳代で麻疹の免疫が低いため、この世代の人が海外渡航する際には、麻疹ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。
(5)アジア:東南アジアでのデング熱流行状況
東南アジア各国でデング熱患者が増加しています(WHO西太平洋 23-5-11)。とくにマレーシアやフィリピンで、昨年の2倍前後の患者数が報告されています。東南アジアはこれから蚊の増える雨季になるため、十分な注意が必要です。
(6)アジア:東南アジアでの百日咳、ジフテリア患者の増加
マレーシアのサバ州で、今年は4月までに百日咳の患者が76人確認されました(ProMED 23-5-3)。フィリピンではマニラなどで、ジフテリアの患者が3月までに33人発生しています(ProMED 23-4-20)。いずれも患者の飛沫などで拡大する感染症であり、流行地域に滞在する際は、三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風混合ワクチン)の接種を受けておくことを推奨します。
(7)アフリカ:マラウイ・モザンビークでのコレラ流行
東アフリカのマラウイでは、昨年3月からコレラの流行が全国的に発生しており、今年3月中旬までに患者数が5万人以上にのぼっています(ProMED 23-5-13)。隣国のモザンビーク北部でも、今年2月のサイクロンによる水害後にコレラの流行が発生し、患者数が増加している模様です。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2023年4月10日~23年5月7日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査 2023年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。
(1)経口感染症:輸入例としては腸管出血性大腸菌感染症7人、赤痢アメーバ1人、A型肝炎1人、E型肝炎1人、ジアルジア3人が発生しています。腸管出血性大腸菌感染症のうち5人は韓国での感染でした。
(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が6人発生し、前月(8人)と報告数に大きな変化はありませんでした。感染国はマレーシア(2人)、ブラジル(2人)、タイ、フィリピン(各1人)でした。マラリアの感染は1人(ブラジルで感染)でした。
(3)その他:コクシジオイデス症の米国での感染者が1人発生しました。米国南西部の砂漠地帯などを中心に流行している真菌感染症で、発熱や肺炎などを起こします。