海外医療通信 2023年7月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター

海外感染症流行情報 2023年7月

(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況

7月は世界的に新型コロナウイルスの感染者数が減少しています(WHO Corona virus disease 23-7-21)。冬を迎えている南半球では、オーストラリアで死亡者数が若干増加していますが、それ以外では顕著な感染者数の変化がみられていません。ウイルスの種類はオミクロン株のXBB系統が大多数を占めており、とくに感染力の強い種類は発生していません。日本では7月になり感染者数が全国的に増加しており、とくに九州や沖縄で感染者が増えています(厚生労働省 23-7-21)。今後、お盆シーズンを迎え、感染者数のさらなる増加が懸念されます。

(2)全世界:インフルエンザの流行状況

南半球のオーストラリア、南アフリカ、チリ、アルゼンチンでは、冬の到来とともにインフルエンザの流行が拡大していました。しかし7月になりピークを越えた模様です(WHO Influenza Update 23-7-10)。南アフリカではA(H3N2)型、南米ではA(H1N1)型の検出数が増えています。

(3)アジア:韓国でのマラリア流行

韓国では今年7月上旬までに、三日熱マラリアの患者が338人発生しました(ProMED 23-7-18)。これは昨年同期の2倍の数で、仁川、京畿道、江原道で患者数が多くなっています。高温多雨の影響で媒介蚊(ハマダラカ)が増加したことが原因と考えられています。

(4)アジア:東南アジアでのデング熱流行状況

東南アジア各国でデング熱患者が増加傾向にあります(WHO西太平洋 23-7-6)。フィリピンで6万人、マレーシアで5万人、ベトナムで3万人の患者が発生しており、マレーシアでは昨年の2倍以上の数になりました。台湾でも今年は7月中旬までに125人のデング熱患者が発生しており、台南が104人と最も多くなっています(Fit For Travel 23-7-13)。

(5)アフリカ:エジプトで腸管出血性大腸菌が流行

エジプトの紅海沿岸にあるハルガダなどで、ドイツ人旅行者が腸管出血性大腸菌に感染する事例が増えています((ProMED 23-7-18)。今年は7月中旬までに31人の患者が発生し、このうち10人が重症の腎障害(HUS)を発症しました。ハルガダはヨーロッパの旅行者にとって人気のリゾート地で、高級ホテルも多数営業していますが、そのような場所でも飲食物への注意は必要です。

(6)ヨーロッパ:欧州での鳥インフルエンザH5N1の流行

2021年以降、高病原性鳥インフルエンザH5N1型の世界的な流行が、家禽や野鳥の間で発生しています。この処理にあたったヒトの感染例も報告されており、英国では今年になり4人の感染者(いずれも無症状)が確認されました(ヨーロッパCDC 23-7-21)。また、ポーランドではネコの感染例(WHO 23-7-14)が、フィンランドではキツネの感染例(ヨーロッパCDC 23-7-21)が発生しており、ウイルスが哺乳動物に感染しやすくなっている可能性があります。現在までに哺乳動物からヒトや、ヒトからヒトへの感染はみられませんが、十分な警戒が必要です。

(7)北米:米国・フロリダ州でマラリア患者発生

米国・フロリダ州で三日熱マラリアの患者が発生しています。発生場所は同州のサラソタ周辺で、6人の患者数が確認されています(米国CDC 23-7-7)。フロリダ州では20年ぶりのマラリア患者発生となりました。

(8)中南米:デング熱の患者が大幅増加

今年は中南米でデング熱の患者数が大幅に増加しており、7月中旬までに300万人を越えました(WHO 23-7-19)。これは昨年1年分の総数に匹敵します。とくに南米のブラジル、ペルー、ボリビアで患者発生が多くみられましたが、既にピークは越えた模様です。今後は中米やカリブ海地域で雨が多くなるため、流行が拡大することが懸念されています。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2023年6月12日〜23年7月9日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査 2023年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢4人、腸管出血性大腸菌感染症25人、チフス3人、アメーバ赤痢2人、A型肝炎1人、クリプトスポリジウム1人が発生しています。腸管出血性大腸菌感染症がとくに増加しており、このうち21人は韓国での感染でした(前月も韓国で7人感染)。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が7人発生し、前月(6人)と報告数はほぼ同じでした。感染国はインドネシアが3人で最多でした。マラリアは1人(リベリアで感染)、チクングニアも1人(フィリピンで感染)でした。

(3)その他: 麻疹の輸入例が2人で、インドネシアとモザンビークでの感染でした。

東京医科大学病院・渡航者医療センターからのお知らせ

・登山者・高山病外来の再開

日本登山医学会理事の上小牧憲寛医師が診療を担当し、同学会登山者検診ネットワーク事業に準拠した検診を行います。詳細は当センターのホームページをご参照ください。専門外来|渡航者医療センター|診療部門案内|東京医科大学病院 (tokyo-med.ac.jp)

・第25回渡航医学実用セミナー

今回の渡航医学実用セミナーは「デング熱とデング熱ワクチンの現状」、「高山病・最近の話題」をテーマに、WEBセミナーとして下記の日程で開催します。申し込み方法やプログラムの詳細は当センターのホームページに8月下旬頃掲載します。セミナー・勉強会|渡航者医療センター|診療部門案内|東京医科大学病院 (tokyo-med.ac.jp)

・日時:2023年11月6日(月)午後2時〜4時 

・対象:職種は問いません(どなたでも参加できます) ・参加費:無料 ・定員:約200名