海外医療通信2023年8月号           東京医科大学病院 渡航者医療センター

海外感染症流行情報 2023年8月 

             

                              

(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況

8月は日本や韓国の属するWHO西太平洋地区で新型コロナウイルスの感染者数が増えています(WHO Corona virus disease 23-8-17)。また、感染者数そのものは多くありませんが、米国やヨーロッパでも感染者数が増加傾向にあります(米国CDC 23-8-19, ECDC 23-8-18)。ウイルスの種類はオミクロン株のXBB系統が大多数を占めており、その一つのEG.5が主流になってきました。免疫逃避をしやすいタイプであり、その影響で世界的に増加している可能性もあります。日本では8月になり感染者数が全国的に増加し、夏の流行状態にあります(厚生労働省 23-7-21)。お盆休みの期間は感染者数が横ばいになっていますが、9月上旬まではこの流行が続くと考えられています。

(2)アジア:韓国でのマラリア流行

今年は韓国で三日熱マラリアの患者が増加していることを前号で紹介しました。その後も患者数は増加し、7月末までに400人以上になっています(Outbreak News Today 23-8-6)。これは昨年同期の倍以上の数です。患者の6割以上は北西部の京畿道で発生しており、仁川やソウルでも患者発生がみられています。韓国滞在中も蚊に刺されないように注意してください。

(3)アジア:アジア各地でデング熱患者が増加

8月になりアジア各地でデング熱患者が増加しています。台湾では8月中旬までに1500人以上の患者が確認されており、このうち8割は台南市での感染でした(Outbreak News Today 23-8-16)。東南アジアでは、フィリピンで8万人、マレーシアで7万人、ベトナムで5万人の患者が発生しており、マレーシアでは昨年の2倍以上の数になっています(WHO西太平洋 23-8-17)。南アジアのバングラデッシュでも、8月上旬までに7万人近い患者が首都ダッカなどで発生しました(WHO 23-8-11)。同国では死亡者も300人以上が確認されており、通常のデング熱の致死率よりも高い数値です。この原因としては、従来と別の型のデングウイルスが流行している可能性が考えられています。

(4)アジア香港などでインフルエンザ流行が発生

南半球の冬のインフルエンザ流行は収束していますが、アジア東部でインフルエンザの流行がみられています(WHO 23-8-21)。東南アジアではフィリピン、カンボジア、ミャンマーなどでA型の患者が増加しています。香港でもA(H3N2)型の患者数が増加し、夏の流行になっています(香港保健局 23-8-24)。

(5)アジア:マレーシアで狂犬病患者が増加

マレーシアは狂犬病のリスクが低い国とされてきましたが、ボルネオ島のサワラク州で2017年頃から患者数が増加しています。今年は8月中旬までに15人の患者が確認されており、昨年の倍近い数になりました(Outbreak News Today 23-8-11)。マレーシアでボルネオ島に滞在する場合は、狂犬病のワクチン接種を受けることをご検討ください。

(6)北米:米国でマラリア、デング熱患者が発生

今年は米国でも、マラリアやデング熱など蚊媒介感染症の患者が発生しています。フロリダ州では8月中旬までに7人の三日熱マラリア患者が確認されており(米国CDC 23-8-22)、8月には首都ワシントンD.C.近郊のメリーランド州で熱帯熱マラリア患者が発生しました。米国内でマラリア患者が発生したのは、フロリダ州で20年ぶり、メリーランド州では40年ぶりです。米国CDCは米国内でマラリアに感染するリスクは、現時点では低いとのコメントを出しています。なお、フロリダ州では8月中旬までに、マイアミなどでデング熱の患者が11人確認されました(フロリダ州保健局 23-8-12)。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2023年7月10日~23年8月6日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査 2023color:blue”>年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢2人、腸管出血性大腸菌感染症12人、チフス3人、A型肝炎2人、クリプトスポリジウム症1人が発生しています。腸管出血性大腸菌感染症は今月も韓国での感染が11人と多くなりました(前月は韓国で21人感染)。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が13人発生し、前月(7人)に比べて倍に増えました。感染国はベトナム(3人)、バングラデッシュ(2人)、ミャンマー(2人)が多くなっています。マラリアの輸入例は2人(いずれもウガンダで感染)でした。マダニから感染するライム病の輸入例が2人発生しており、オーストリアとスイスでの感染でした。

(3)その他: レプトスピラ症の輸入例が1人あり、マレーシアでの感染でした。

東京医科大学病院・渡航者医療センターからのお知らせ

・第25回渡航医学実用セミナー

今回の渡航医学実用セミナーは「デング熱とデング熱ワクチン」、「高山病・最近の話題」をテーマに、WEBセミナーとして下記の日程で開催します。申し込み方法やプログラムの詳細は当センターのホームページに9月中旬までに掲載します。

セミナー・勉強会|渡航者医療センター|診療部門案内|東京医科大学病院 (tokyo-med.ac.jp)

・日時:2023年11月6日(月)午後2時~4時  

・対象:職種は問いません(どなたでも参加できます) ・参加費:無料