海外医療通信2024年2月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター

 海外感染症流行情報 2024年2月 

(1)全世界:COVID-19の流行状況

欧米諸国で23年末から発生していたCOVID-19の冬の流行は収束に向かっています(米国CDC 24-2-23、ECDC 24-2-23)。一方、中国や南米のチリやアルゼンチンで、報告数がやや増加傾向にあります(WHO corona 24-2-16)。ウイルスの種類はオミクロン株のJN.1が世界的に9割近くを占めています。日本ではCOVID-19の患者数が2月中旬にピークを迎えており、JN.1に置き換わりつつあります(厚生労働省 24-2-16)。

(2)全世界:インフルエンザの流行状況

インフルエンザの患者数は2月になり北米や中国で減少傾向にありますが、ヨーロッパではまだ高い状態が続いています(WHO influenza 24-2-19) 。また、シンガポールやマレーシアで患者数が増加しています。日本では2月もインフルエンザ患者数が増加傾向にあり、B型の検出が多くなっています(厚生労働省 24-2-16)。

(3)アジア:カンボジアで鳥インフル患者が多発

カンボジアでは24年に鳥インフルエンザH5N1型の患者が2月下旬までに5人発生し、うち1人が死亡しました(ECDC 24-2-23)。23年からの累積患者数は11人になります。患者はカンボジア全土で発生しており、家禽からの感染と推測されています(WHO 24-2-8)。

(4)アジアタイでのジカ熱流行(続報)

タイで23年にジカ熱の患者が700人以上報告されたことを前号で紹介しました。24年も2月下旬までに全土で73人の患者が発生しています(英国NaTHNAC 24-2-23)。妊婦がジカ熱に感染すると、胎児に小頭症などの先天異常を起こす可能性があるため、タイに妊娠中の人が滞在する場合は、媒介蚊に刺されない対策を十分にとるようにしてください。

(5)アジア:東南アジアでのデング熱流行

マレーシアとシンガポールではデング熱の流行が始まっており、両国とも昨年同期を上回る患者数が報告されています(WHO西太平洋 24-2-15)。シンガポールでは大流行となった22年を上回る数で、今後の流行状況に注意が必要です。

(6)アフリカ:アフリカ南部でコレラ流行

アフリカ南部のザンビアで23年10月からコレラの流行が発生しています。24年1月中旬までに首都ルサカなどを中心に1万人以上の患者が発生し、400人以上が死亡しました(英国NaTHNAC 24-1-24)。隣国のジンバブエでも7000人以上のコレラ患者が発生しています(ProMED 24-2-7)。ザンビアとジンバブエ国境にあるビクトリア滝には、日本からの観光客も多く、滞在中は飲食物の注意に心がけてください。

(7)中南米:デング熱患者が急増

米州保健機関によれば24年は2月上旬までに67万人のデング熱患者が発生しており、これは昨年同期の2倍以上の数になります(米州保健機関 24-2-16)。とくにブラジルでの患者発生が多く、中部のMinas Gerais州などで2月中旬までに65万人の患者が報告されました(英国NaTHNAC 24-2-16)。ブラジル政府は、武田薬品が開発したデング熱ワクチンの集団接種を開始する予定です。ブラジル以外でもメキシコやパラグアイなどでデング熱患者が増加しています。

(8)中南米:西部ウマ脳炎の流行拡大

アルゼンチンで西部ウマ脳炎の流行が23年末に発生したことを前号で報告しました。24年に入ってもアルゼンチンでは中部などで患者発生が続いており、1月25日から2月2日までに30人以上の患者(疑いを含む)が報告されました(ECDC 24-2-9)。また、隣国のウルグアイでも2009年以来の患者発生があり、2月中旬までに21人の患者(疑いを含む)が報告されました(英国NaTHNAC 24-2-19)。西部ウマ脳炎は蚊に媒介される感染症で、発熱とともに脳炎を起こす病気です。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2024年1月8日~24年2月4日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2024年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢1人、腸管出血性大腸菌感染症3人、赤痢アメーバ症1人、A型肝炎4人、E型肝炎2人、ジアルジア症1人が発生しています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が12人発生し、前月(13人)と変化ありませんでした。感染国はシンガポール/マレーシア(3人)、フィリピン(2人)、スリランカ(2人)が多くなっています。マラリアの輸入例は2人で、インドとケニアでの感染でした。ツツガムシ病の輸入例が1人報告され、オーストラリアでの感染でした。

(3)その他:侵襲性髄膜炎菌感染症の輸入例が1人報告されており、ウズベキスタンでの感染でした。飛沫感染で拡大する感染症で、髄膜脳炎や菌血症など重症な症状を起こします。播種性クリプトコッカス症の輸入例も1人報告され、タイでの感染でした。環境中の真菌が原因となり、気道からの吸引で感染し、髄膜脳炎などを起こします。