海外医療通信2024年3月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター              

海外感染症流行情報 2024年3月 

(1) 全世界:COVID-19とインフルエンザの流行状況

COVID-19については、欧米諸国や日本で冬の流行が収束しつつありますが(米国CDC、ECDC、厚生労働省24-3-22)、南米や東欧で患者数が増加しています(WHO influenza update 24-3-20)。一方、インフルエンザの患者数は欧米諸国で減少しているものの、まだ高い流行レベルが続いています。日本でも3月末になり、インフルエンザの定点報告数がやや増加しました(厚生労働省24-3-22)。

(2)全世界:麻疹の流行状況

日本では今年になり、海外輸入例を起点とする麻疹の患者が発生しています(国立感染症研究所 24-3-13)。世界的にはアジア、アフリカなどで流行が拡大しており(米国CDC Travelers Health 24-3-22)、こうした地域に滞在する場合は、必要に応じて麻疹ワクチンの接種を推奨しています。米国でも今年は3月中旬までに、海外からの輸入例を中心に58人の麻疹患者が確認され、昨年の年間患者数を越えました(米国CDC 24-3-18)。ヨーロッパでも今年は昨年以上の麻疹患者が発生しおり、オーストリア、ドイツ、フランスなどで患者数が多くなっています(ヨーロッパCDC 24-3-15)

(3)アジア:デング熱の流行状況

東南アジア各地でデング熱の流行が始まっています。マレーシアでは3月中旬までに2万5000人、シンガポールでは3000人以上の患者が発生しており、昨年同期よりも増加しています(WHO西太平洋24-3-14)。タイでも1万7000人の患者が発生しており、昨年の2倍以上の数になっています(ProMED 24-3-14)。ベトナムではハノイで500人以上の患者が確認され、例年より早い流行が発生しています(ProMED 24-3-20)。東南アジアはこれから本格的なデング熱の流行シーズンに入るため、十分な予防対策をとるようにしてください。

(4)アジア:インドで流行性耳下腺炎、水痘が流行

インド南部のケララ州で3月に流行性耳下腺炎(オタフクカゼ)の患者が2500人以上発生しました(ProMED 24-3-13)。同州では水痘の患者も今年6700人発生しています。日本で水痘は、過去の感染やワクチン接種で免疫を持つ人が大多数ですが、流行性耳下腺炎は免疫を持たない人がいるため、流行地域に滞在する際は出国前にワクチン接種を受けることを検討ください。

(5)ヨーロッパ:オウム病の流行

スウエーデン、デンマーク、オランダ、オーストリア、ドイツなどヨーロッパ諸国で、23年以降、オウム病の患者が増えています(WHO 24-3-5)。特に23年11月~12月に患者数が増加し、5人が死亡しました。オウム病は細菌感染症で、肺炎を起こします。鳥類(ペットや野鳥)の排泄物から感染し、ヒトからヒトには拡大しません。

(6)ヨーロッパ:百日咳の流行

チェコでは今年になり百日咳の患者が1600人以上発生しており、過去4年間の合計数を越えました(ProMED 24-3-14)。オランダでも今年は百日咳患者が1400人発生しており、4人が死亡しました(ProMED 24-3-20)。COVID-19流行にともなう医療負荷で、小児の定期接種が世界各地で停滞しており、百日咳の流行が再燃しています。この影響はヨーロッパでも生じているようです。

(7)アフリカ:コンゴ民主共和国でのエムポックス(サル痘)の流行

中央アフリカのコンゴ民主共和国で、今年1月から2月に3941人のエムポックス患者(疑いを含む)が発生し、271人が死亡しました(WHO Press Briefing 24-3-22)。患者の発生は全国的に起きていますが、首都キンシャサ周辺や東部の南キブ地方で多いようです。患者は小児が多く、患者との接触で拡大している模様です。エムポックスはサル痘と呼ばれていた感染症で、22年5月ごろから性行為などにより世界的な流行が起きていました。今回、コンゴ民主共和国で増加しているのは、世界流行しているウイルス(Clade 2b)とは別系統のウイルス(Clade 1)で、致死率がより高いとされています。WHOの報告では、現時点でこの系統のウイルスの流行は、コンゴ民主共和国以外では起きていないとのことです。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2024年2月5日~24年3月3日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2024年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢2人、腸管出血性大腸菌感染症5人、腸チフス2人、赤痢アメーバ症3人、A型肝炎1人、E型肝炎2人が発生しています。E型肝炎はイタリア、フランスでの感染でした。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が7人発生し、前月(12人)より減少しました。感染国はインドネシア(4人)が多く、南米も2人でした。マラリアの輸入例は1人で、ガーナでの感染でした。

(3)その他:麻疹の輸入例が1人報告されており、タイで20歳代後半の感染でした。

渡航者医療センターからのお知らせ

24年3月末をもって渡航者医療センターの濱田篤郎部長(特任教授)が退任します。4月以降の当センターの診療体制については次号でお知らせいたします。