海外医療通信 2024年8月号           東京医科大学病院 渡航者医療センター

海外感染症流行情報 2024年8月                              

(1) 全世界:COVID-19とインフルエンザの流行状況

COVID-19については、欧米や日本で起きていた夏の流行がピークを越えつつあります(米国CDC 24-8-23、ヨーロッパCDC 24-8-23、厚生労働省 24-8-23)。ウイルスの種類としては、オミクロン株の派生型であるKP.3やKP.2が世界的に流行しています(WHO corona 24-8-13)。なお、米国食品衛生局は、ファイザー社とモデルナ社のKP.2型を標的としたmRNAワクチンを8月に承認しました(米国FDA 24-8-22)。インフルエンザについては、南半球の温帯地域での冬の流行が収束に向かっています(WHO influenza 24-8-22)。

(2) 全世界:エムポックスの第2回目の緊急事態宣言

WHOは8月14日、アフリカ中部で拡大しているエムポックスの流行について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であるとの宣言を発しました(WHO 24-8-14)。エムポックスはアフリカの風土病でしたが、22年から欧米諸国などで2型ウイルスの世界的な流行が発生し、この年にWHOが第1回目の緊急事態宣言を発しました。その後、流行は収束傾向にありましたが、23年9月頃より、1型ウイルスがコンゴ民主共和国から拡大したため、第2回目の宣言になりました。同国では8月中旬までに1万5000人以上の感染者が発生し、530人以上が死亡しています(WHO 24-8-14)。エムポックスは皮膚に病変をおこす疾患で、患者との濃厚接触により感染します。流行の拡大している地域では、患者との密な接触を控えるようにしてください。なお、天然痘ワクチンがエムポックスの予防に有効ですが、現時点で日本国内では一般流通していません。

(3)アジア:蚊媒介感染症の流行拡大

東南アジアではデング熱の患者数が増加傾向にあります(WHO西太平洋 24-8-22)。シンガポールでは1万人以上の患者が確認され、昨年の倍以上の数になっていますが、全体的には昨年より患者数が少ない状況です。一方、インドでは南部のカルタナカ州(州都バンガロール)で、デング熱の患者数が2万人と、昨年同期の5倍近い数になりました(ProMED 24-8-7)。

インド中部のマハラシュートラ州(州都ムンバイ)では、プネなどでジカ熱の患者が今年は100人以上確認されています(ProMED 24-8-18)。妊婦がジカ熱に感染すると胎児に小頭症などを起こす危険性があり、米国CDCは同州への妊婦の滞在にあたり、十分な注意を呼びかけています(CDC Travelers’ Health 24-8-22)。

(4) アジア:インド西部でチャンディプラ・ウイルス感染症が流行

インド西部のグジャラート州を中心に、今年7月からチャンディプラ・ウイルスの流行が発生しています(WHO 24-8-23)。患者数は200人以上(確定は64人)にのぼり、82人が死亡しました。患者の多くは小児で、脳炎症状を起こしています。チャンディプラ・ウイルスは、狂犬病ウイルスが属するラブドウイルスの一種で、サシチョウバエや蚊などの昆虫に媒介されます。インドでは以前から雨期に流行することがあり、2003年に南部で流行した時は300人以上の患者が発生し、183人が死亡しました。ワクチンはないため、流行地域に滞在する際には、虫除け薬などで昆虫に刺されないよう注意をしてください。

(5)アジア:インドでポリオ患者が発生

インド東部のメーガーラヤ州で小児のポリオ患者が1名発生しました(ProMED 24-8-16,17)。ウイルスはワクチン由来株とされています。同国では2011年以来の患者発生になりました。

(6)ヨーロッパ:麻疹患者の発生

西欧諸国では今年も麻疹患者の発生が続いています(ヨーロッパCDC 24-8-16)。8月中旬までにイタリアで807人、ドイツで399人、フランスで300人の患者が確認されており、日本での同時期の発生数28人を大幅に上回っています。こうした国々に長期滞在する場合、ワクチン接種を2回受けていない人は、追加接種を受けることをお奨めします。

(7)中南米:オロプーシェ熱の流行拡大

今年になりブラジルなどの中南米諸国で、昆虫(ヌカカ)に媒介されるオロプーシェ熱の流行が拡大していることを前号で報告しました。その後も患者数は増加えており、7月下旬までに8000人以上になりました(WHO 24-8-23)。また、妊婦が本症に感染した場合、胎児への感染を併発し、小頭症などの先天異常や流産を起こす可能性があり、WHOが調査中です。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2024年7月8日〜8月11日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2024年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢8人、腸管出血性大腸菌感染症20人、腸チフス3人、アメーバ赤痢1人、ジアルジア症1人、A型肝炎3人が発生しています。腸管出血性大腸菌感染症は韓国での感染が18人と多くなっています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は18人発生し、前月(14人)よりやや増加しました。感染国はフィリピンが10人、インドネシアが3人と多くなっています。マラリアは6人で、このうち3人はアフリカ、2人はアジア(ネパール、アフガニスタン)、1人は大洋州(パプアニューギニア)での感染でした。チクングニア熱は1人で、インドネシアでの感染でした。

(3)その他:麻疹の輸入例が2人で、西欧での感染でした。エムポックス(2型)の輸入例が1人で、シンガポールでの感染でした。ブルセラ症が1人(中国で感染)、レプトスピラ症が1人(タイで感染)報告されています。類鼻疽が2人報告されており、いずれも東南アジアでの感染でした。本症は東南アジアなどの環境中にいる細菌を吸い込んだり、経口摂取したりして感染し、発熱や肺炎を起こします。

渡航者医療センターからのお知らせ

東京医科大学病院・渡航者医療センターは、2024年9月2日から東京医科大学病院敷地内にある駐車場棟1階に移転します。新しくなる外来にご期待ください。