海外医療通信2024年9月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター             

海外感染症流行情報 2024年9月 

(1) 全世界:COVID-19の流行状況

欧米諸国や日本では8月にCOVID-19の夏の流行が発生していましたが、9月に入り流行は収束傾向にあります(米国CDC 24-9-23、ヨーロッパCDC 24-9-20、厚生労働省 24-9-20)。ウイルスの種類としてはオミクロン株の派生型であるKP系統が世界的に流行しています(WHO corona 24-9-17)。なお、欧米諸国などでは冬の流行に備えた秋のワクチン接種が開始されますが、日本でも10月から高齢者を対象にした定期接種が始まります。

(2)全世界:エムポックスの流行状況

エムポックスの流行状況には、ここ1ヶ月で大きな変化がみられていません(WHO Mpox 24-9-22)。重症化しやすい1型ウイルスの患者は、コンゴ民主共和国の東部やブルンジなどで引き続き発生しています。また、アフリカ以外でも、スウエーデン、タイ、インドで1型ウイルスの患者が確認されました。米国CDCは、流行国への渡航者のうち、滞在先で性行為に及ぶ可能性がある者については、予防対策として天然痘ワクチンの接種を受けることを推奨しています(CDC Travelers’ Health 24-9-23)。なお、このワクチンは日本では一般に流通していません。

(3)アジア:デング熱の流行状況

東南アジアや南アジアは雨期を迎えており、デング熱の患者数が増加傾向にあります(WHO西太平洋 24-9-19, WHO南東アジア24-9-4)。患者数は全般的に例年並みですが、インドについては南部のケララ州やカルナタカ州で例年以上の数になっています。また、西太平洋のサモアやタヒチなどでも患者数が増えています。

(4)アジア:インド南部でレプトスピラ症が流行

インド南部のケララ州で、レプトスピラ症の患者が今年になり2000人近く発生しており、200人以上が死亡しました(ProMED 24-9-18)。レプトスピラ症は細菌性疾患で、発熱、肝障害、腎障害などを起こします。ネズミが病原体を保有しており、ネズミの尿に汚染された水に接触するなどして感染します。今年はケララ州で大雨が起きていることが、患者数増加の原因と考えられています。

(5)ヨーロッパ:英国で麻疹が流行

英国では今年に入り麻疹患者が2000人以上発生しています(ProMED 24-9-14)。とくにバーミンガムやロンドンなどで多く、この地域では過去10年で最多となりました。同国では麻疹ワクチンの接種率が低下しており、これが流行拡大の原因とされています。

(6)ヨーロッパ:南部でデング熱患者が発生

近年、ヨーロッパ南部ではデング熱の国内流行が夏季に見られており、今年もフランス、イタリア、スペインで複数の患者が発生しました。9月中旬までに、フランスでは地中海沿岸を中心に57人、イタリアでは中部のアドリア海沿岸などで25人(英国NaTHNaC 24-9-19)、スペインでは南部のカタルーニャで5人の患者が報告されています(ヨーロッパCDC 24-9-13)。夏にヨーロッパ南部に滞在する際には、蚊に刺されない対策が必要です。

(7)北米:米国で感染経路不明のH5N1型患者発生

米国では今年、鳥インフルエンザH5N1型ウイルスの感染者が13人報告されています。いずれも、このウイルスに感染した家禽やウシに接触した事例でしたが、9月初旬にミズリー州で、動物との接触歴が全くない感染者が報告されました(米国CDC 24-9-6)。この感染者は慢性疾患の悪化で医療機関を受診し、感染が判明したそうです。現在、CDCが感染経路などについて調査を行っています。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2024年8月12日〜9月8日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2024年 (niid.go.jp) を参考に作成しました。

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢6人、腸管出血性大腸菌感染症30人、腸チフス6人、アメーバ赤痢3人、A型肝炎3人が発生しています。腸管出血性大腸菌感染症は前月(20人)より増加しており、韓国での感染が26人と多くなっています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は39人発生し、前月(18人)より倍増しました。感染国はフィリピンが10人と最も多く、インドネシア7人、インド5人、タイ5人と続いています。今年のデング熱の累積患者数は165人で、昨年同期の88人に比べ大幅に増えました。マラリアは4人で、パキスタン(3人)、カメルーン(1人)での感染でした。