海外医療通信2025年1月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター
海外感染症流行情報 2025年1月
(1) 全世界:インフルエンザ、COVID-19の流行状況
インフルエンザの患者数は1月に入って欧米や東アジアなどで増加しています。ウイルスの種類は、
東アジアやヨーロッパではA(H1N1)型が多く、北米ではA(H1N1)型とA(H3N2)型がほぼ同数となっています(WHO Influenza update 25-1-23)。日本では1月中旬になり患者数が減少傾向にありますが、今後、B型の流行が予想されます(厚生労働省 25-1-24)。
COVID-19の患者数は1月に日本や米国で増加しましたが、昨シーズンよりも少ない数になっています(厚生労働省 25-1-24、米国CDC 25-1-24)。また、欧州では一部の国を除き、患者数があまり増えていません(ECDC 25-1-24)。ウイルスの種類はXEC型が増加傾向にありますが、昨年夏に拡大したKP.3系統も引き続き検出されています(WHO 25-1-17,国立感染症研究所 25-1-17)。COVID-19は例年2月頃に流行がピークを迎えるため、今後も注意が必要です。
(2) 全世界:エムポックスの流行状況
エムポックスで重症化しやすい1型の患者は、アフリカのコンゴ民主共和国、ブルンジ、ルワンダ、ウガンダなどで引き続き発生しています(WHO Mpox 25-1-11)。アフリカ以外では、この1ヶ月間、新たにフランスや中国などで患者が確認されました。英国、ドイツ、ベルギー、中国では国内での二次感染も報告されています(ECDC 25-1-10)。
(3) アジア:中国での呼吸器感染症の増加
昨年12月から中国北部で呼吸器感染症が増加しているとの情報があり、WHOが調査を行いました。その結果、インフルエンザの流行が拡大しているとともに、ヒトメタニューモウイルスの患者が増加していることが明らかになりました(WHO 25-1-7)。このウイルスは以前から風邪の原因として知られており、子どもや高齢者で肺炎をおこすこともありますが、重症化はあまり多くありません。WHOは想定範囲内の規模の流行であるとの見解を示しています。
(4) アジア:デング熱の流行状況
アジアの多くの国ではデング熱の流行が収束しています。しかし、マレーシア、ベトナム、バングラデッシュ、スリランカなどでは、1月も患者の発生がみられています(西太平洋WHO 25-1-9、南東アジアWHO 25-1-12)。滞在中は蚊に刺されない対策をとるようにしてください。
(5) アフリカ:エチオピアでマラリアが流行拡大
東アフリカのエチオピアで、24年のマラリア患者数が過去最多の840万人になりました(ProMED 24-27)。米国CDCによれば、首都のアジスアベバを含むほぼ全土で感染リスクがあり、渡航者には予防内服を推奨しています(米国CDC 25-1-17)。エチオピアは日本からの直行便があり、近年、日本人の観光客も増えていますが、滞在する際はマラリアの予防対策が必要です。
(6) アフリカ:タンザニアでマールブルグ熱が発生
東アフリカのタンザニアでマールブルグ熱の患者が発生しています(WHO 25-1-13)。患者が報告されたのは同国東部のカゲラ地域で、疑い患者が10人確認され(2人確定)、このうち9人が死亡しました(ECDC 25-1-24)。この地域はウガンダやルアンダと国境を接しているため、隣国への拡大が懸念されています。
(7) 北米:米国での鳥インフルエンザH5N1型の流行状況
米国で昨年から発生している鳥インフルエンザH5N1型ウイルスの患者は、今年1月下旬までに67人にのぼっています(米国CDC 25-1-17)。患者の大多数はウシや家禽の牧場労働者で、結膜炎や上気道炎など軽症ですが、12月初旬にルイジアナ州で発病した患者は、自宅で飼っている家禽から感染しており、1月初旬に死亡しました。
(8) 南米:ブラジル南部での黄熱患者発生
今年1月、ブラジル南部にあるサンパウロ州のカンピーナス郊外を訪問した者が、黄熱を発病しました(Fit For Travel 25-1-17)。同州ではサルの感染例も報告されており、滞在者はワクチン接種を受けるようにしてください。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2024年12月9日〜25年1月12日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2025年を参考に作成しました。
(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢3人、腸管出血性大腸菌感染症7人、腸チフス4人、パラチフス1人、アメーバ赤痢3人、クリプトスポリジウム症1人、ブルセラ症1人が発生しています。ブルセラ症は発熱を起こす細菌疾患で、ウシやヒツジなどの乳製品を加熱殺菌が不十分な状態で摂取して経口感染します。本例はインドネシアでの感染でした。
(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は9人発生し、前月(16人)より減少しました。感染国はフィリピンとインドネシア(各2人)が多くなっています。24年のデング熱の累積患者数は232人で、23年の172人に比べ増加しました。マラリアの患者は1人で、ブラジルでの三日熱マラリアの感染でした。
(3)その他の感染症:麻疹の患者が1人発生し、英国での感染でした。
・渡航者医療センターからのお知らせ
東京医科大学病院・渡航者医療センターでは、「渡航者のメンタルヘルス」に関する専門外来を月1回(原則第2週木曜日)行っていますので、ご利用ください。