危機的状況に対処する子供たちへの援助-支援者自身のケア-(燃え尽きないために)
支援者の課題 言うまでもありませんが,危機的状況では保護者,教師,そして子どもに関わるすべての支援者が, 子どもたちを援助するのに重要な役割を担います。支援者は,本能的に自分のことは二の次にして, 子どものことを第一に考えます。しかし,支援者ご自身の反応をモニターし,ご自身のニーズを満 たすことが非常に重要です。そうしなければ,燃え尽き症候群に陥って危機介入を支援する能力の 妨げとなってしまいます。これは,例えばイラク戦争における長期的なストレスや不安に対してだ けでなく,自然災害やテロのような危機的状況の直後にもあてはまります。ここでは,子ども達の ケアをしながら,支援者自身の心の安定を支えるためにできることを紹介します。
支援者の役割 従来,危機的状況に対応する支援者には「危機対応の専門家」,「メンタルヘルス専門家」,「医師」, 「被災者支援カウンセラー」,「宗教的指導者」などが含まれます。これらの専門家は,破壊や喪 失のイメージにさらされても対処できるよう,また被害者や生存者が衝撃的な出来事を越えてい けるよう支援する訓練を受けています。教師や管理職は子どもたちの生活において子どもたちを 安心させることができますが,ほとんどはメンタルヘルスや危機対応及び介入の正式な訓練は受 けていません。困難な事態をより悪化させることもありますので,支援をするのに十分なスキルが ない学校関係者は自分の専門外のことまで行わないよう気をつけてください。
燃え尽き症候群に陥る可能性 危機対応の初期段階では,支援者はエネルギーと意欲に満ち溢れていることでしょう。支援者の認 知機能,訓練経験,および回復力は,ケアを受ける子どもたちにとって重大な資源となります。しか し危機介入が続くと,支援者たちは心身ともに「燃え尽き」を実感することがあります。暴力, 絶 望, 苦難のイメージ, または継続的に危険を予測している状態は, 専門家としての孤立感と精神 的な落ち込みを大きくします。特に,支援者が自身の心理的反応と向き合う時間がない場合に顕著 です。成果は見えにくく,あるいは成果がなかなかでない場合,時として不眠や心身衰弱によって 効果的な対処能力を失ってしまいます。支援者は「援助者」というよりも「被害者」のような気 持ちになりはじめます。また,支援者自身に以前からの心理的トラウマや薬物乱用も含めた精神疾 患がある場合,あるいは社会的繋がりや家族を失っている場合は,燃え尽き症候群に陥りやすいで しょう。
認知面
燃え尽き症候群のサイン 燃え尽き症候群は徐々に発症するものですが,事前に以下のようなサインに気付くことができま す。
身体面
危機的場面,被害者,危機介入について常に考えてしまう。 ・ 客観的思考を失う。 ・ 判断を下せなくなり,また自分の気持ちについて話したり書いたりすることができない。・ 自分を,被災者及び被災家族と同一化する。
感情面
慢性的疲労感および(あるいは)不眠。 ・ 胃腸の問題,頭痛,その他の痛みなどの症状。 ・ 過食あるいは食欲不振などの摂食の問題。
行動面
自殺念慮および(あるいは)深刻なうつ状態。 ・ 怒りや激情につながる過敏性(イライラする気持ち)。 ・ 強烈な不信感および(あるいは)悲観。 ・ 被災者とその家族に対する過剰な心配。 ・ 他の人が危機介入を行っているのに対して,がっかりする気持ちや嫉妬する気持ち。 ・ あらゆる危機介入に関与しなくてはという強い衝動。 ・ 危機介入後の顕著な動揺と情動不安。
・ アルコールおよび薬物乱用。 ・ 同僚,友人,および(あるいは)家族との接触を避ける。 ・ 衝動的なふるまいをする。 ・ 被災者や被災家族と必要以上に連絡をとり続ける。 ・ いつもの仕事に戻ったり,やり遂げたりできない。 ・「危機介入チーム」(管理職、生徒指導・教育相談担当、コーディネーター、養護教諭、スクールカウンセラーなどからなる)から,独立して仕事をしようとする。
燃え尽き症候群の予防 深刻な危機的状況の後であろうと、長期にわたるストレス度の高い状況の途中であろうと、支援 に対する弱まることのない要求が,最も経験豊富な支援者をも燃え尽きさせる結果になることが あります。支援者の置かれた環境によってご自身が感情的に弱くなっている場合などは特に陥り やすいでしょう。危機的介入の訓練をしていない教師やその他の支援者にとってはよりその危険 が高まります。したがって、すべての支援者が以下に述べる提案(個人的なことや職業的なこと) を、燃え尽き症候群の予防として考慮する必要があります。 1自身の限界を知り、自分が無理なくできること、無理しないとできないことを知る。 2自分自身の反応は正常であり、多くの訓練を受けた危機介入の専門家にとってもよく起こるものだと理解する。 3できる限り,普段どおりの日課(特に運動や食事、就寝の時間)を続ける。その時の痛みを和 らげるのを助けてくれる,信頼できる友人か家族とかかわる。 4自分が楽しめることをするのを自分自身に許す(例えば買い物をする、友人と外食をする等)。 5危機的状態にある間,支援者として力を発揮するためにアルコールや薬物を利用しようという 対処をとらない。 6危機的対応をしている間、プレッシャーや要求を軽減するため家族や友人の助けを求める。 7健康的な摂食習慣を保ち、水をたくさん飲む。 8少なくとも数時間毎には、定期的な休憩を入れる。 9できるだけ質の良い睡眠をとる。できれば薬やアルコールに頼らない。 10一日の終わりに時間をとって,別の支援者や同僚とその日の出来事を振り返ったり,報告した りする。 11「自分自身」にも「他者にも」親切にする,みなさんは人生を変えるような出来事に遭遇して いるのだから。誰もが皆それぞれ、自分がそれらの出来事から受けている衝撃について振り返り, 考える時間が必要である。
Adapted and translated from Helping Children Cope With Crisis: Care for the Caregivers, NASP
References and Resources:
Brock, S.E., Sandoval, J., & Lewis, S. (2001). Preparing for crises in the schools: A manual for building school crisis response teams. New York: Wiley.
Greenstone, J. & Levinton, S. (1993). Elements of crisis intervention: Crises and how to respond to them. Belmont, CA: Wadsworth.
Mitchell, J.T., & Everly, G.S. (1996). Critical incident stress debriefing. Ellicott City, MD: Cheveron. Mitchell, J.T., & Everly, G.S. (1998). Critical incident stress management: The basic course workbook
(2nd ed.). Ellicott City, MD: International Critical Incident Stress Foundation. Poland, S., & McCormick, J. (2000). Coping with crisis: A quick reference. Longmont, CO: Sopris West.
子どもたちの緊急援助に関する情報は、www.nasponline.orgを参照してください。
?2003, National Association of School Psychologists, 4340 East West Highway #402, Bethesda, MD 20814
Adapted and translated from Helping Children With Crisis: Care for the Caregivers (2003), National Association of School Psychologists, by Maiko Ikeda, EdS NCSP (San Diego State University graduate), and Miki Kihara, M.A. in Counseling Psychology (Michigan State University) in the United States, and reviewed by Dr. Toshinori Ishikuma, Tsukuba University in Japan. This handout and other crisis information posted on the NASP website at www.nasponline.org.