強いトラウマをもつ子どもの見つけ方: 保護者や教師のためのヒント

危機となるできごと(例:自然災害、暴力、家族や友人の死)にさらされると、子どもは深 刻な悩みをなんらかの症状として表わすことがよくあります(例:ショック、泣く、怒る、混 乱する、恐れ、悲しみ、苦悩、悲観)。たいていこうした反応は一時的で、時間が経つにつれ て減少していきます。しかしこうした反応が、もっと深刻な情緒的トラウマの一端である場合 もあります。そのため、大人がこの危機にどう対応するかが、トラウマをもつ子どもの今後の 状態に強く影響します。大人が落ち着いて対応し、子どもをできるだけ安心させることが非常 に重要です。この資料では、子どもが必要な専門的カウンセリングをタイムリーに受けること がより確実になるために、どのようにして強いトラウマをもつ子どもを見つけるかについて、 説明します。

トラウマとなるできごとにさらされるだけでは、必ずしも、深刻なトラウマに陥るとは限り ません。むしろ子どもの深刻なトラウマは、強い情緒的な苦悩をもたらす危機を「どのように 経験したか」という結果なのです。ですから、メンタルヘルスの専門家(例:スクールカウン セラー、スクールソーシャルワーカー、医師)に相談する必要性のサインとなる、リスク要因 およびトラウマとなるできごとへの特定の反応について、あらかじめ理解しておくことが有益 なのです。

子どものトラウマ経験 あるできごとが、ある子どもにとって、どのようなトラウマとなるのは、その「できごと自体」と「危機に関する子ども自身の個人的な経験」との相互作用の結果です。簡単にいうと、 ある子どもがそのできごとを脅威として、認知するならば、子どもがトラウマをもつ可能性は 高まります。こうしたできごとを脅威として知覚するかは以下のことにより決定されます。

(1)危機的なできごと自体の性質。
(2)危機にさらされること。
(3)被害者との関係。
(4)大人のトラウマへの反応。
(5)傷つきやすさなどの個人的な要因。

1. 危機的なできごと トラウマとなるできごとのなかでも、脅威的な度合いが異なります。 強い情緒的なトラウマは、(事故などに対して)攻撃行動が意図的になされる場合に起 こる可能性が高いようです。そして思いもよらない突然のできごとが、特に甚大な結果 (例:死を招く)を招いた場合にも、比較的長く続き、強くなります。

2. 危機にさらされること 子どもが危機的なできごとに身近であればあるほど、危機にさ らされる時間が長ければ長いほど、できごとを個人的な恐怖と結びつける可能性が高く なります。したがって、テロ攻撃や学校内の銃撃、自然災害を身近に経験した子どもは、 現地から離れていた子どもよりもリスクが高くなります。

3. 被害者との関係 災害の被害者(命をなくした人、負傷者、脅迫された人など)と関係 のある子どもは、そのできごとを脅威として受け入れる可能性が高くなります。また、 被害者との関係が強いほど、子どもの苦痛は大きくなります。保護者や家族の一員を亡 くした子どもは、特にリスクが高くなります。

4. 大人の反応 特に幼い子どもは、大人の危機的なできごとへの行動や反応に影響を受け ます。最初は脅威としてまた恐いものとして感じていなかったできごとでも、保護者や 教師がパニックになっているのを観察すると、子どもはそのできごとに恐怖や脅威を感 じるようになる場合があります。マスメディアの扇情的なニュースも、子どもができご とを恐ろしいものとして受け止める度合いに影響を与えます。

5. 個人の脆弱性 個人的な経験や特徴も、危機的なできごとがどのように認知されるかに 影響を与える可能性があります。

a. 家族要因 家族と共に生活していない子ども、家庭内暴力にさらされてきた子 ども、家系に精神疾患の経歴をもつ子ども、または災害によって大きなストレス を感じている保護者をもつ子どもなどは、特に大きなストレスを感じる可能性が 高くなります。

b. 社会的要因 周りに子どもを安心させ、支えとなる友だちや親せきがいないな かで、災害に向き合わなければならない子どもは、このようなサポートを少なく とも一つもつ子どもよりも、トラウマに苦しむ可能性が高いです。

c. メンタルヘルス 以前から精神的な問題(抑うつや不安障害など)をもってい たところに、トラウマになるようなできごとを経験した子どもは、そのできごと によって大変苦しむ可能性が高くなります。

d. 発達段階 幼い子どもは、いくつかの点で、トラウマとなるできごとによる情 緒的な影響からは守られているかもしれません(なぜなら、脅威と認知しないた めに)。しかし、いったんある状況を脅威的なものと認知すると、年長の子ども や青年よりも、強いストレス反応を経験する可能性があります。

e. 過去のトラウマ経験 これまでに脅威的な、あるいは恐ろしいできごとを経験 していた子どもは、次に災難が起こった場合に、強い心理的苦痛を経験する可能 性が大きいです。

強い情緒的なトラウマのサイン 上記に示したリスク要因が子どもにある場合は、強い情緒的なトラウマの症状がないかどう

かしっかりと注意して見る必要があります。危機的なできごとの初期にいくつかの症状がある のは予測できることですが、つぎのような反応があれば、メンタルヘルスの専門家に相談する 必要があります。

1. 急性の初期反応危機の間ずっと、激しい反応を示す(例:病的に興奮する、パニック になる)
2. 覚醒水準の高まり 睡眠導入や睡眠の際の障害、イライラや怒りっぽい、集中力の低下、 過敏に驚く。
3. 危機喚起からの回避と感情の麻痺 トラウマを思い出すもの(こと)を一切避ける、他 人とのかかわりを避ける、ポジティヴな感情をもつことが難しい。
4. 不適切なコーピング 害をもたらす可能性があるコーピング(例:薬物やアルコールの 使用、過激な攻撃)

こういった反応が子どもの日常生活を妨害したり(例:友だちと遊ぶことができない、不登 校)、症状が長続きしたりする(できごとが起きて一週間かそれ以上経っても弱まらない)場 合は、特に注意しましょう。

こうしたサインは、遅れて現れることがあります。戦争、また災害の結果としての家や地域 の喪失のように、継続中や長期化しているトラウマの経験の場合は、特にそうです。さらに、 トラウマとなるできごとを経験している子どもは、将来の危機に強いトラウマ反応を示すリス クが高まります。

必要に応じて、子どものサインを理解し、援助を求める!

保護者やその他の重要な大人は、リスクが大きい子どもを注意深く観察し、すぐに援助を求 めることによって、トラウマとなるできごとから生じる強い心理的な影響を減らすことができ ます。メンタルヘルス・サービスの担い手であるスクールカウンセラーやスクールソーシャル ワーカーなどは、学校の援助サービスシステムの一つですが、教師、管理職、保護者が、特別 の援助が必要な子どもを見分け、地域における適切な相談先(援助資源)を見つけるのを援助 することができます。トラウマに対しての「正常な反応」と「過激な反応」を区別することに は、訓練が必要です。もし子どもについて心配なことがあれば、メンタルヘルスの専門家に相 談すべきです。

Adapted and translated from Helping Children After a Natural Disaster: Information for Parents and Teachers (NASP)
児童、青年の強い情緒的なトラウマのサインや徴候については National Center for PTSD:http://www.ncptsd.org/facts/specific/fs_children.html や National Association of School Psychologists:www.nasponline.org をアクセスしてください。

Translated by Elina Saeki, Doctoral Candidate in School Psychology University of California, Santa Barbara, in collaboration with Dr. Toshinori Ishikuma, faculty at university of Tsukuba, Dr. Yayoi Watanabe, faculty at Hosei University, and Dr. Shane Jimerson, faculty at the University of California, Santa Barbara, with permission of the National Association of School Psychologists.

©2011, National Association of School Psychologists, 4340 East West Highway #402, Bethesda, MD 20814 This and other crisis information is available on the NASP website at www.nasponline.org