自然災害にあった子どもたちへの援助 – 保護者や教師ができること

自然災害は,特に子どもたちにとっては忘れられないほど衝撃的な体験となりえます。 危険な洪水や嵐,地震を経験することは大人にとっても恐ろしいことですし,身近な環境 (自宅や地域)が破壊されると,長期的に悲惨な状態に陥ってしまいがちです。地域全 体に影響があった場合,子どもたちの安全や正常な状態は徐々にむしばまれていきます。 このような緊急事態において気をつけなければならないことがらや問題,特にそれぞれ の自然災害特有の問題,例えば家や地域が破壊された場合の移住の必要性や,トラウマや 感情的な反応(具体的には後ほど紹介します)を和らげる働きをする家族の役割,また ストレスへの対処スキルを,ここでは紹介します。

子どもたちは,身近な脅威が去った後,どのように対処すべきか,ということを,身近にいる 大人から学ぼうとします。保護者,教師,その他の世話をしてくれる大人は,落ち着いて行 動し,子どもたちに大丈夫だと安心させることでその役割を果たします。震災直後の反 応が大事であり,効果的な対処方法を教えることや,支援しあう関係を築くこと,また子ど もが自分たちの反応を理解する手助けをすることが必要となります。

このような危機的状況に対処する過程において,安全でなじみのある環境を提供できる という点で,学校も大切な役割を果たせます。気にかけてくれる大人からの援助が得ら れる環境にいることが助けとなり,子どもたちも通常の活動に戻ることができます。学 校職員も子どもたちにできる限り手助けができ,また恐ろしいできごとを,学習経験に変 える機会をも提供できるのです。

それぞれの災害特有の問題

ハリケーン(台風)通常,ハリケーンは数日前から発生,だいたいの通過ルートなどが 分かっており,人々には準備期間があります。家族にとっての必要物資の調達など,予測 できる災害に備えられます。と同時に,その間に恐怖や不安が沸き起こるかもしれません。いくら危険を予測しても,ハリケーンがどこを直撃するか,という不安は消えないで しょう。ハリケーンが直撃した場合,被災者が経験するのは,暴風雨や落雷です。したが って,これらの経験がトラウマとなった場合,その後数ヶ月は突然の音に驚いたりする反 応があります。子どもたちの中には,その後の嵐がパニックを起こす原因となったりし ます。ハリケーンによる被災直後の反応としては,感情的,身体的疲労があります。子ど もたちのうちには,無事であったことに対する罪悪感を感じることもあるでしょう(自分自身が被害をこうむっていなくても,他の人が怪我をしたり志望したりした場合)。

地震:余震があるという点で,地震は他の自然災害と異なります。これが最後である,と いう確かな保証が無いために,引き続いて起こる余震によって起こる混乱が,心理的な苦 痛を増加させます。他の災害(ハリケーンや洪水など)と違って,地震は警報もなく事 実上突然起こります。この点で,被災者のもつ心理的な対処法や適応を促す能力を発揮 しづらくします。比較的予測不可能な状況は,人々の警戒心を著しく弱めます。例えば 洪水が起こる前に高台に登ることができるし,ハリケーンが起こる前にシャッターを下 ろすこともできるでしょう。しかし,地震に関してはほとんど事前準備や警告がない場 合が多いのです。災害を乗り越えた人々は,被災後の破滅的な状況に対応しなければな りません(例えば,爆発,余震,有毒ガスや噴煙による被害,火事によるすすの被害など)。

竜巻:地震と同様に,トルネードも数分のうちに破壊的な影響を及ぼし,人々に準備する 隙を与えません。混乱や失望が後に続きます。ハリケーンと似て,人々はトルネードが 起こっている間物事に対処する能力の限界を感じるかもしれません。破壊された状況を 見たり匂いをかいだりするのに苦痛を伴うでしょう。トルネードは気まぐれな性質をも つので,被災者のうち特に共通する対処する能力としては罪悪感があります。例えば,子 どもたちの中には,隣の家の子の家が無くなってしまったのに自分たちにはまだ住む家 がある,といったような罪悪感を示す子どももいるでしょう。

水害(津波も含む):水害は起こる頻度の高い自然災害です。そのうち津波や鉄砲水 は,兆候もなく突然速いスピードでやってくるので最も危険です。木々をなぎ倒し,道路 や橋を破壊し,建物を倒壊します。ダムの決壊や津波の場合,特に水は破壊的になります。 景色の荒廃や汚泥の匂い,正体のなくなった建物,寒さや濡れている状態,大量の泥などに 対処する気力・能力を発揮しなければなりません。ほとんどの水害の場合,一夜では水 は引きません。多くの被災者が,街の清掃を始める前に数日,数週間もの間避難所で待機 せざるを得ません。

復帰への長い道

自然災害自体は短い期間で収束しても,被災者は数ヶ月,または数年もの間,その災害の後 遺症に悩まされる場合があります。「学校における緊急対策チーム(管理職、生徒指導 主事・教育相談担当・養護教諭・スクールカウンセラーなどから構成される)」と地域 や県,国の団体や機関との協働が,自然災害後影響を受けた子どもたち,家族,地域のニーズ に応えるために必要です。被災した家族は多くの人々や機関とのやり取りを強いられま す(例えば,保険会社,建築会社,電気工事,屋根の修理,赤十字,各災害対策委員会,ボランテ ィアや自衛隊の人々など)。災害後の後遺症を克服するのには,時間がかかります。し かし,入念な準備や早い対応が,人々の対処能力や回復力を高めるでしょう。

子どもたちが示すかもしれない自然災害への反応

子どもたちの反応の程度は,具体的にはそれぞれがもつリスクファクター(困難な要 因)によるところが大きいでしょう。災害そのものに遭うことのほかに,愛する人々が けがをしたり亡くなったりした経験,保護者によるサポートの程度,家庭や地域からの避 難による退去,周りの環境の物理的損壊の程度,すでにもっている困難さ(例えば過去の 外傷的体験や精神疾患など)が挙げられます。もし子どもが長期にわたる災害後の回復 時に著しい行動の変化をみせたり,以下にあげる症状を示したりした場合に,大人は専門 家に連絡するべきです。

• 就学前の子どもたち-親指しゃぶり,おねしょ,保護者へのまとわりつき,睡眠障害, 食欲不振,暗闇への恐怖心,行動の退行,友だちや日常生活からの引きこもりなど。

• 小学生-いらいら,攻撃的言動,まとわりつき,悪夢,登校拒否,集中力の欠如,日常生 活やともだちからの引きこもりなど。

• 中高生-睡眠や食欲の減退,動揺,衝突(対立場面)の増加,身体愁訴,非行行動,集 中力の欠如など。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスクがある子どもたちのもいるでしょう。症状 には,上記のものの他に,遊びや夢の中で災害を再体験してしまったり,災害が再発する不 安や予感に苛まれたり,災害後の損壊場所や物を忌避したり,感情的な話にも無感覚とな ったり,集中力を保てない,驚愕反応を示すといった症状を頻繁に起こすことなどが挙げ られます。まれですが,PTSD やうつ病などの重い精神疾患を患う中高生には自殺のリス クも高まります。改めて,大人がこれらの症状を示す子どもたちに専門的な援助の機会 を与えてやらなければなりません。

落ち着いて,子どもたちを安心させ続けること 子どもたち,とりわけ幼い子どもたちはあなた方大人を模範とします。犠牲者や破壊に ついて子どもたちに知らせますが,地域の人たちが努力して,立て直しや片付けをするこ とを強調します。可能な限り,家族や友人が子どもたちを守り,元の生活に戻るようにす ると子どもたちに約束します。

子どもたちの気持ちを認め,正常な反応であると伝えること 子どもたちに自分の気持ちや心配,不安を話させます。この災害に関する質問を自由に させます。傾聴し,共感します。共感的傾聴は非常に重要です。子どもたちにそれらの 反応は正常であり,起こりうる反応であることを伝えます。

子どもたちに災害に関することを話すよう促すこと 子どもたちは,安全で、受け入れられている環境で,自分の経験を話す機会が必要です。 子どもたちが経験を話し合えるような活動を提供します。活動とは,ことばやことば以外の方法,例えば、描画,物語,音楽,演劇,音声,ビデオ録画など様々な活動を組みあわせます。 子どもたちの発話をまとめたり,活動について助言が必要であれば,スクールカウンセラ ーや,スクールソーシャルワーカーらに協力を求めるとよいです。

肯定的対処スキルや問題解決スキルを奨励すること 災害によるストレスに対する問題解決スキルの使い方を子どもたちに教える活動が必要 です。子どもたちが不安に対処し、それぞれの状況に合った方法がわかるように,現実 的で肯定的な対処方法を身につけられるようにします。

子どもたちの回復力(立ち直る力)を強調すること 子どもたちの強い能力に焦点をあてます。子どもたちはこれまでにも怖かったり混乱し たりした時にうまく処理してきており,今回もそれと同じであるとわかるよう手助けし ます。自然災害にあい,復興したその他の地域(例えば,阪神淡路地方)に関心を向けます。

子どもたちの関係やピアサポート(友だち同士の支え合い)を強化すること 他者からの強い心理的サポートがある子どもたちは,困難を乗り越えることが可能です。 子どもたちの仲間とのつながりは,対処方法について助言を与えられ,孤立を減らすこと ができます。多くの災害状況で,家族の転居によって友だち同士が離れ離れになること が考えられます。両親自身が被災して疲れ果て,そのような状況にある子どもたちを支 えられないケースもあります。子どもたちが小集団で協力するような活動は,仲間との サポート関係を強化する手助けとなります。

自分自身のニーズを大切にすること 先生方や保護者の方々も,あなた自身の時間をとり,事態に対する自らの反応にできる だけ対処するよう努めてください。うまく対処できた場合には,よりうまく子どもたち を手助けすることができるでしょう。もしあなた自身に不安や混乱がある場合には,子 どもたちはあなたと同じような気持ちをもつ傾向があります。家族,友人,宗教家,カウン セラーなど他の大人に話して下さい。あなた一人で恐怖や不安を抱えてあれこれ悩まな いことが大切です。気持ちを他者と共有することで,人々を安心させたりつながりを実 感させたりすることがよくあります。身体の健康を管理して下さい。短時間でもあなた 自身が楽しめる時間を作ってください。気持ちを楽にするためにドラッグやアルコー ルに頼ることは避けましょう。

援助ニーズの大きい子どもの発見および援助の計画を立てること リスク要因は,上であげた項目の子どもたちの反応のとおりです。援助の活動には,教室 での話し合い,個別のカウンセリング,小集団のカウンセリング,あるいは家族への援助な どがあげられます。教室での話し合いや教師と保護者の連絡を密に保つことで,学校の 「緊急対策チーム」はどの児童生徒がカウンセリングを必要としているか判断することができます。また,児童生徒が自分自身でカウンセリングを求められることや保護者が 子どものカウンセリングを求められるようにする必要があります。

児童生徒が災害について話す時間の提供すること 状況によってではありますが,教師はクラスで災害について話し合ったり,集団への危機 介入をするために、スクールカウンセラーや他のメンタルヘルスの専門家(例:スクー ルソーシャルワーカー、医師、保健師など)に児童生徒を会わせたりするようすること ができるでしょう。クラスでの話し合いは子どもたちが災害について理解できる手助け となります。また,スクールカウンセラーらは子どもたちが効果的な対処の手段を獲得 し,類似した疑問をクラスメートと共有し,友だち同士の支え合いを強めるよう努めます。 教師は,子どもたちが深刻な状況であったり,教師自身が悲嘆したりしている場合にはこ れらの話し合いを実施してはいけません。

スタッフが自分自身の感情を話し合い,彼らの経験談を分かち合う時間の確保すること 緊急チームのメンバーもスクールカウンセラーやメンタルヘルスの専門家による支援を 受けるべきです。危機介入の提供は精神的に疲れますので支援者は自身の危機への反応 に対処する必要があるでしょう。これは,児童生徒への緊急支援を行っている場合には, 教師やその他の学校スタッフにも該当します。

さらなるメンタルヘルス支援の保証すること 多くの支援者が自然災害の直後に支援の提供をしたいと考えることが多いですが,長期 サービスが不足しがちです。スクールカウンセラーらメンタルヘルスの専門家たちはメ ンタルヘルスサービスのコーディネーションを行い,サービスを提供する手助けができ ます。長期的な援助を提供するために地域の援助資源とつながっておくことも重要です。 これらの関係は,事前に確立されていることが理想的です。

自然災害後の移転にともなう子どもたちの適応を手助けすること

頻出する災害に伴う移転は,特有の対処が必要な課題を生み出します。これは,子どもた ちとその家族が経験した,環境,社会,心理的ストレスの一因となります。子どもたちは,家 族メンバーや両親の反応,移転の期間,普段の対処スタイルと情緒反応,そして友人や他の 身近な人と活動し続けられるかどうかに大きく影響を受けます。可能な限り保護者およ び他の支援者は以下のことをしてください。

• 子どもたちに友だちと会う機会を提供してください。

• 仮説住宅での滞在時に子どもたちが大切にしているものを持たせてください。

• 子どもたちが何をすればよいのかわかるように毎日の決まりごとを作ってください(できるだけ早く学校に戻ることも含めます)。

• 子どもたちが自分の考えを仲間と分かち合い,心配や不安に注意深く耳を傾ける機会を提供してください。

• 移転にともなう混乱に敏感でいてください。また,子どものニーズに対応してください。

• 子どもの発達レベルとひとりひとり異なるユニークな経験を考慮してください。子どもはひとりひとり異なるので,移転にともなう混乱の反応も異なることを忘 れないでください。

さらに,学校関係者は以下のことをしてください。

• 学校の全児童生徒の状況を確認します。欠席しているそれぞれの子どもに連絡を

とり,記録を残します。自宅が破壊した子どもたちのニーズを明確にします。

• 移転を余儀なくされた全児童生徒の電話番号と住所を確認します。クラスメート

に手紙を書いたり,電話をかけたりするよう伝えます。

• 児童生徒がうまく対処するために、どんな援助資源が必要か,また日常生活にお

けるどんな変化が必要かについて学校のスタッフに報告する「児童生徒の委員

会」を設置します。

• 児童生徒に耳を傾け,行動観察をします。子どもたちが災害について理解し,適応

するには時間がかかります。子どもたちがその悲惨な出来事について何度も何度 も話すことは正常な行動です。子どもたちがどのようにそれを乗り越えていくか 話し合う機会を提供します。感情を表現するために創造的な活動(例えば,演劇, 美術,音楽,写真)を使用します。

• 家庭が地域の援助資源と繋がれるように手助けします。住宅,財政および保険に 関連するニーズに対応できるよう,担当者を学校に招きます。子どもたちが必要 な医療や心理的援助を得られることを確認します。

• 始業前および放課後の活動に人員を増やします。可能であれば,延長時間および 週末にまでサービスを拡張します。

• 必要に応じて災害の関連分野に関する情報を盛り込みます。科学,数学,歴史,言語 芸術は特に関連があります。

Adapted and translated from Helping Children After A Natural Disaster:
Information for Parents and Teachers, Lazarus, PJ, & Jimerson, SR, Brock, SE (2003), National Association of School Psychologists, by Maiko Ikeda, Ed.S. NCSP (San Diego State Univeristy graduate), and Miki Kihara, M.A. in Counseling Psychology (Michigan State University) in the United States, and reviewed by Dr. Toshinori Ishikuma, Tsukuba University in Japan. This handout and other crisis information posted on the NASP website at www.nasponline.org

©2003, National Association of School Psychologists, 4340 East West Highway #402, Bethesda, MD 20814

◎この資料は著者の Shane R. Jimerson 先生,(スクールサイコロジスト、カリフォルニ ア大学サンタバーバラ校)および National Association of School Psychologists (NASP):ア メリカ学校心理士会)の好意ある許可の基に 池田真依子さん,木原美妃さんが,日本語に訳し,石隈利紀(筑波大学)が内容を確認 したものです。